もうひとつ、不動産業界の特徴として「規制産業である」という点も、デジタル化の遅れにつながっているのではないかと思います。本来、情報の付加価値を高め、産業の進化を促すには、デジタル化した方が明らかにやりやすくなります。しかし、規制産業では市場の競争原理が及びにくいため、そうした進化の力が働きにくく、またデジタル化による効率化やデジタルトランスフォーメーション(DX)も進まない、といったことがよく見られます。

 不動産業界を含め、いくつかの業界がこうした規制や情報の非対称性を盾に“一方的に儲かる”“適正でない価格を維持できる”といった状況にあると思います。

一生に1度あるかないかの葬儀では
適正価格が見えにくい

 不動産以外で、情報格差を利用して一方的に利益を得ているのではないかと思われる業界としては、冠婚葬祭、特に葬儀業界が挙げられます。

 当連載の過去記事『「サブスクモデル」で激変、プロダクト価値を押し上げるビジネスの新潮流』でも書きましたが、人生で何度も経験することなら、誰しも前回の経験を生かそうとしたり、周囲の人の経験を参考にしたりできます。そして、ほかの経験者とのナレッジシェアによって集合知も生かせるようになります。するとサービスを受ける側にも、情報や知識を持つ側に対する審美眼のようなものが働くようになります。

 ところが一生に1度あるかないか、もしくは数回しか経験しないようなことについては、そうしたロジックが働きません。その典型的な例が葬式です。あるいは結婚式なども同じ傾向があるかもしれません。私自身も「葬式で値切るようなことをするのは良くない」と親族に言われたことがありますが、葬式や結婚式では適正価格が判断しにくいのです。

 もちろん、規制や手続きについてのきちんとした専門知識を提供してくれる人に対して対価を払うことは当然のことです。その専門性を生かした上でサービスを提供することは、情報格差で儲けているのではなく、正しい知識を売っているということです。この点は、単に情報を出し惜しみすることで利益を得ることとは、区別して考えたいところです。

 しかし葬式や結婚式では、情報をもとにした知恵による付加価値に、一体いくらの値段を付ければよいのか判断に苦しむところがあります。