デジタル化による「情報格差」の解消とシステム化が古い体質の業界を革新する事業者と顧客の間の「情報の格差」が大きい業界で、よいサービスが生まれるためにはどんな改革が必要か(写真はイメージです) Photo:PIXTA

事業者と顧客の間にある情報格差は、ときに高い価格や質の悪いサービスをもたらす。マイクロソフトやグーグルでエンジニアとして活躍し、複数の企業で技術顧問を務める及川卓也氏は、「情報格差はデジタル化の遅れにより生じる。また業界の古い体質から来る“誠意ある対応”がデジタル化の遅れにつながっている」と指摘する。情報格差が残る業界で、より良いサービスはどうすれば生まれるのか。及川氏が考察する。

「情報の非対称性」の背景に
デジタル化の遅れ

 世の中には、事業者と顧客との間にある「情報格差」を利用して、本来目指すべき適正値より高い価格でモノやサービスを提供することが当たり前となっている産業があります。この情報格差、あるいは「情報の非対称性」と呼ばれる構造がもたらす不均衡について、不動産業界を例にとって説明してみたいと思います。

 不動産業界でよく取り上げられる課題に、いわゆる「おとり物件」というものがあります。これは、すでに契約が決まった条件の良い物件を顧客を呼び寄せる“えさ”として店頭や媒体に掲載し続け、顧客にはまだ契約の決まっていない違う物件を紹介するというやり方で、賃貸物件で特によく見られます。

 おとり物件には、業者に悪意があって掲載を続けているケースと、意図せず掲載を続けてしまうケースがあるようです。

 不動産業者は一般に、貸主(大家さん)から直接、物件のあっせんや媒介契約をするだけでなく、物件情報を別の同業者と相互にやり取りし、顧客からの問い合わせがあれば互いに問い合わせて物件の確認をするのが常となっています。業界には業者同士が物件情報を共有できるデータベースもあるのですが、このデータベースと自社のデータベースなどとの間で情報をアップデートする際にはタイムラグが生じます。このタイムラグにより、業者も意図せずに契約の決まった物件が掲載され続けることがあるというのです。