がんの手術後は、肩関節が動かしにくくなる「拘縮」が生じることがある。
痛みが怖くて肩関節をかばってしまうが、安静が過ぎると可動域がますます狭くなり、着替えや洗面、入浴など日常の動作や家事、仕事にも支障がでる。
英ワーウィック大学の研究グループは、乳房切除術(再建なし、8割以上がリンパ節郭清と脇の下および鎖骨上の放射線照射を受けた)後の391人(平均年齢58・1歳)の女性を対象に、術後リハビリテーション(リハ)のタイミングと効果を検討している。
参加者は理学療法士が考案したリハプログラムの説明を受け、少なくとも3回(最大6回)は対面で指導を受ける「リハ群」と、「標準ケア群」に分けられ、それぞれ1年後の生活の状況を報告した。
リハ群は、術後1週間~10日以内にプログラムの説明と肩関節のストレッチを開始。1カ月後には筋トレを追加し、3カ月後に追加のセッションを受けている。一方の標準ケア群は、リハの重要性を説明するパンフレットを渡されたのみだった。
その結果、リハ群は術後12カ月の時点で標準ケア群より痛みの程度が低く、肩の可動域も拡がり、生活への支障は有意に低かった。
一方、手術部位の感染や傷の痛み、リンパ浮腫(むくみ)に関しては両群に差はなかったが、リハ群は機能障害や筋・関節の痛みが軽減されていた影響もあり、主観的な健康感は良好だった。
日本の関連学会も、乳がんの術後リハを強く推奨している。開始のタイミングについては術直後の0~3日目か、術後5~8日目かで議論伯仲しているが、最新のガイドラインでは後者が推奨された。実際、術直後は怖さが先に立つため、少し落ち着いてからのほうがリハに取り組みやすいだろう。
乳がんは完治が期待でき、進行がんでも平均寿命まで生き切る可能性があるがんである。それだけに治療後は、「私は今の状態でOKだ」という感覚を保つことが大切になる。
これから乳がん切除術を受ける方は、術後リハについても納得のいく説明を受け準備しておこう。
(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)