「こどモード」へのモードチェンジ

――正木さんは以前から「遊び」を研究や教育実践のテーマにされています。遊びに着目されたきっかけは何だったのですか。

正木 東京学芸大学内にある「こども未来研究所」というNPOに関わったことです。そのNPOのテーマの一つが、遊びを学問の対象とすることでした。それまで学問の文脈に遊びが位置付くなど考えたこともなかったのですが、僕が専門としているデザインや美術も、遊びを切り口にすることで新たに見えてくるものがたくさんありました。過去にも遊びの研究が実はたくさんあって、その中にもいろいろなヒントがありましたね。

アートを生み出し、ビジネスマインドを鍛える「遊び」の力Photo by ASAMI MAKURA

――ホイジンガとか。

正木 『ホモ・ルーデンス』(※2)ですね。社会学者や文芸批評家などいろいろな顔を持っていたロジェ・カイヨワは、ホイジンガのその著書の内容を発展させて『遊びと人間』という本を書きました。彼は遊びを「運」「競争」「模倣」「目まい」という4つの要素に分けています。「目まい」というのは身体的な揺らぎのことで、ブランコや滑り台などで身体的に味わう体験が遊びの重要な要素ということです。

――「運」というのは、最近の言葉でいうとセレンディピティのようなものですか。

正木 まさにそうです。偶発性ですね。簡単に言えば、ジャンケンをすれば勝つこともあれば負けることもあるということです。しかし、その結果を「運が良かった」とか「運が悪かった」と受け止めるためには、後からの意味付けが必要になります。つまり、事後的に意味が発生するわけです。

――こども未来研究所は、「codomode(こどモード)」という言葉を提唱していますね。

正木 一種の呪文のようなもので、大人になっても「子どものモード」にいつでもチェンジできるようになろう、という意味が込められた言葉です。「111の白昼夢」も、「こどモード」に自由にモードチェンジして、思いのままに「表出」できる大人たちがいたからこそ実現したものといえると思います。「写真を大きく引き伸ばして、子どもたちに自由に落書きしてもらう」というアイデアを中川さんにお話ししたら、「それは面白いねえ。ぜひやりましょう」と言ってくださいました。まさに「こどモード」でいろいろなことを楽しめる達人だと思いましたね。

――この展覧会は、大人が「こどモード」にチェンジするきっかけになるだけでなく、お子さんが見ても楽しめそうな内容ですよね。

正木 ええ。親子連れで見に行って、みんなで「こどモード」になって帰る。そんな楽しみ方ができる展覧会だと思います。

※2 オランダの歴史学者、ヨハン・ホイジンガ(1872~1945年)の主著。「遊ぶ人」を意味する。遊びの学術研究の古典。