アートを生み出し、ビジネスマインドを鍛える「遊び」の力Photo by ASAMI MAKURA

商業写真家として長く活動する中川十内氏と、プロフィルを明らかにしていないアートユニット「The Pranks(ザ・プランクス)」のコラボレーションによって生まれた作品を展示する「111の白昼夢」写真展が「ギャラリー イー・エム 西麻布」(東京都港区)で開催されている(12月26日まで)。開催に先立って、中川氏、同展覧会のプロデューサーである河嶋隆司氏、東京学芸大学准教授で、デザイン、絵本、遊びなど多彩なテーマで研究・教育活動を続けている正木賢一氏の3人にディスカッションをしていただいた。このインタビューは、そのディスカッションを受けて正木氏に行ったものである。「遊び」というキーワードを軸に、アートとビジネスの本質を掘り下げる。(インタビュー・構成/フリーライター 二階堂 尚)

「文通」のように進んだ作品制作

――「写真と絵のコラボレーション」と聞いて、最初はどのような作品をイメージしていましたか。

正木 デジタル合成やCG、あるいは多重露光のようなテクニックを使ったものなのかなと漠然と考えていました。デジタル技術が使えるようになってから、異なる表現の融合が比較的容易になって、いろいろなところでデジタルコラボレーションが試みられています。この展覧会もそのような試みの一つなのかな、と。

――実際は、作品はかなりアナログな方法で作られたようですね。

正木 いい意味で裏切られましたね。中川十内さんが撮影した写真をプリントアウトして、それをThe Pranksに送って、ペインティングしてもらうという方法で作ったとのことでした。アナログかつ遠隔でやりとりを行うまるで文通のような方法です。手紙を出して、返事を楽しみに待って、届いたらとても意外な内容だった。そんな感じですよね。

――The Pranksはバンクシーのような正体不明のアートユニットなので、中川さんはコラボの相手を知らずに「文通」をしたことになります。

正木 中川さんの「遊び心」がそれを可能にしたのだと思います。気の向くままにスケッチするように写真を撮って、それを名前も顔も知らない人の手に委ねて、自由に絵を描いてもらい、その結果生まれたものを楽しむというのは、遊び心がなければなかなかできないことです。

――普通、写真家は自分の写真に他の人の手が加えられるのを嫌がりますよね。

正木 中川さんはベテランの商業写真家ですから、ご自身が撮影したものにデザインなどの手が加わってアウトプットが生まれていく過程には慣れていらっしゃると思います。僕も大学教員になる前は商業グラフィックデザインの仕事をしばらくしていたので、その感覚はよく分かります。