異なる出版社から「SFとビジネス」がテーマの3タイトルが、一気に発売されたことの意味とはPhoto:HAYAMI

SFの豊かな発想をビジネスに生かす「SFプロトタイピング」が注目を集めている。この夏の同時期に、SFプロトタイピングとその方法論のベースとなる「SF思考」を論じた3冊の本が発売されたことで、「SF」はにわかにビジネスのキーワードとなった感がある。10月に開催された丸の内ブックフェスでは、それらの本に携わった5人のキーパーソンがリアルとリモートで一堂に会し、それぞれの本の内容や各人が考えるSF思考について語り合った。SFプロトタイピングはビジネスの新しい潮流を生み出す方法として定着するのだろうか。3冊の本と丸の内ブックフェスのトークショーを通じて、SFプロトタイピングの課題と可能性を展望する。(フリーライター 二階堂尚)

「SF」はNGワード

 もう何年前になるだろうか。その作品の多くが映画やドラマになっていることで知られるある作家の取材をする機会があった。結果的に取材が成立しなかったのは、インタビューが始まってからの数分で、その作家がいきなり口を閉ざし、ひと言もしゃべらなくなってしまったからである。しばらくの沈黙の後、彼女は(その作家は女性だった)、「私だめだ」とか何とか言いながら席を立って、控室に閉じこもってしまった。

 同席していた彼女の担当編集者に後から聞いて分かったのだが、彼女の作品を「SF」と表現したことがどうやら逆鱗に触れたらしかった。「SF」はその作家にとってNGワードとのことだったが、それならそこに地雷があることを編集者はあらかじめこちらに伝えておくべきだし、そもそもなぜその言葉が地雷なのかが分からない。現にSFに分類されるような作品を彼女は多数書いているからである。

 おそらく、自分の作品を特定のジャンル名で軽々しく定義しないでほしいということなのだろうと考えたが、同時に、SFあるいはSF界に対する軽蔑めいた感情が彼女の中にあるのだろうとも思った。SFの人たちと一緒にされたくない、というような。

「SF」のひと言で取材を拒否するのはどうかしていると言うほかないが、SFに対する偏見というかステレオタイプなものの見方は一般的にあると思う。10代の短期間SFに熱中したが、その後はSF小説をつまみ読みしてきたくらいで、特にSF映画を好んで見ているわけでもない私のような門外漢にも、門外漢故の偏見が正直ある。付き合い始めた女性との3回目のデートのときに、「私、本はSFしか読まないの」と真顔で告げられたら、さてどうするか。