メタバースの実現に向けて
激しさ増す半導体業界の地殻変動

 今後、インテルなど世界のIT先端企業は、TSMCとの協業を一段と強化しようとするだろう。その結果、最先端の半導体生産施設が台湾に集中するはずだ。それ以外の国と地域では、汎用型の生産ラインが増え、半導体メーカー間の競争は一段と激化するだろう。

 TSMCの最先端の生産ラインをめぐる各国企業の争奪戦は、熾烈(しれつ)化するだろう。TSMCの生産ラインを確保する力が、インテルをはじめ世界のIT先端企業の事業運営に決定的な影響を与えるといっても過言ではない。足元では、メタバース(仮想空間)の実現に向けて、世界のIT企業が取り組みを強化している。例えばアップルは来年にも、ARヘッドセットの発表を目指している。

 新しい機能の実現には、新しい半導体が欠かせない。需要の高まりによって、TSMCは生産価格を引き上げる。外注コストの増加を吸収して成長を実現するために、企業は新需要の創出を強化しなければならない。意思決定のスピードはおのずと速まり、国際分業も加速する。他方で、TSMCはこれまで以上に微細化やパッケージング技術の革新に取り組み、それがIT先端企業のさらなるイノベーション発揮を刺激するだろう。

 その一方で、インテルのように汎用型の生産ラインを用いて、車載半導体などの生産能力強化に活路を見いだす半導体メーカーは増えるだろう。各社は、競合他社の買収、あるいは資産売却によって、事業運営の効率性を高める必要がある。それが出来ない半導体メーカーは、淘汰(とうた)されるだろう。

 そうした環境変化に、わが国企業は対応しなければならない。過去の事業運営の経験を捨てることができなければ、わが国企業が半導体業界の地殻変動に対応することは一段と難しくなるだろう。