生活の質の低下に
歯止めがかからない

 文大統領は、韓国は国民1人当たりGDPで世界十大経済大国の仲間入りを果たしたというが、国民生活にはその実感は広がっていない。

 グローバル統計サイト「Numbeo」によると、2021年の韓国の「生活の質」指数は130.02となり、評価対象国83カ国中42位となった。文政権1年目の2017年には67カ国中22位だったから、大きく悪化したことになる。

 生活の質が低下した主な要因は、非正規労働者の増加に加えて、不動産価格の高騰が挙げられる。

 ソウル市内の不動産価格は文政権の4年間で倍増した。文政権はこの間で20回以上、大々的に不動産対策を発表しておきながら、価格上昇を抑えることができなかった。その結果、若者がマンションを購入することは遠い夢になってしまった。韓国の男性が婚姻するときには家を用意しなければならない。家を持てないということは、恋愛、結婚、出産、育児を放棄することになる。

 さらに、20~30代の調査では、「一生懸命働いても金持ちになれない」と答えた人が70.9%に上った。そして、69.5%は「希望する職場に就職する可能性は低い」、62.9%は「今後も若年層の雇用環境は悪化する」と答えている。

 これでは晩婚化の解消や合計特殊出生率の改善にはつながらないだろう。

何よりも優先すべきは
出生率を引き上げる施策

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 韓国では、超高齢化社会の到来は避けることができない、それに向けた備えが必要だとの指摘が出ている。

 中央日報によれば、慶煕(キョンヒ)大東西医学大学院のキム・ヨンソン老人学科教授は「超高齢化社会に必要な高齢者向け技術に投資する必要がある。(同技術は)新しい成長エンジンとして高付加価値と良質の雇用を創出し、経済成長に寄与するだろう」「(同技術の)受恵者は高齢者になるが、これを開発してサービスを提供する人は青年であるため、雇用の創出が期待される」と述べた。

 こうした取り組みはたしかに効果的だろう。しかし、何よりも重要なことは出生率を上げる施策である。大統領が国内的な闘争、労働組合となれ合いの企業たたき、北朝鮮の実態を見ない無益な歩み寄りに埋没している時間はないはずである。大統領は韓国社会の現実を直視し、未来に向けた果敢な政策を打って出ることが求められている。

(元駐韓国特命全権大使 武藤正敏)