物語は、日本の1980年代のアダルトビデオ業界を舞台にして始まる。本橋信宏によるノンフィクション『全裸監督 村西とおる伝』(太田出版)を原作に、「放送禁止のパイオニア」こと村西とおるの半生を描くもの。伝説のAV女優・黒木香など、村西と共に黎明期のアダルトビデオ業界を駆け抜けた人物や実際のできごとを追いながら、味わい深くエロティシズムとユーモアを交えた壮絶な人生ドラマがシーズン1と2を合わせて全16話にわたって展開される。

 見どころは多岐にわたる。なかでも、これまでオタク、闇金業者、勇者など、ありとあらゆるキャラクターを演じてきた俳優・山田孝之(たかゆき)が、前科7犯、借金50億円、米国司法当局から懲役370年を求刑されたAV監督・村西になりきる姿は必見である。シーズン1公開前の2019年6月25日に東京都内で開催された「ネットフリックス・オリジナル作品祭」に登壇した際、山田は「完コピは考えていなかった」と前置きしつつ、「村西さんに実際お会いすると、相手と内容によって切り替わる方だと分かった。つまり、スイッチを入れるタイプ。カメラを回す『モンスター』の村西とおる像だけを演じてしまうと、苦悩の状態の時の人間らしさが伝わりにくくなる。だから、スイッチが入る瞬間を意識した」と、役作りのこだわりについて語っていた。パンツ一丁でカメラを担ぎ、ニヒルな笑みを浮かべるビジュアルイメージからして、「何かワケあり」の雰囲気が醸し出されている。

『全裸監督』は日本版の『ナルコス』

 ネットフリックスには『ナルコス』という、80年代のメキシコを舞台に麻薬戦争の裏側をあぶり出す実話をベースにした大ヒット作品があり、こうした裏社会の歴史ものは人気カテゴリーのひとつでもある。『全裸監督』も、ダークヒーローや負け犬を意味する典型的な「アンダードッグ」物語である。バブルの時代に欲望と金にまみれて崩壊していくアダルトビデオ業界ビジネスドラマとしてもじっくり味わえる。

メキシコの麻薬戦争を描く『ナルコス』。複数のシリーズが作られている大ヒット作品だ Photo: NETFLIXメキシコの麻薬戦争を描く『ナルコス』。複数のシリーズが作られている大ヒット作品だ Photo:NETFLIX