就活生の7人に1人にあたる14.4%が「就活うつ」に

 就活でのつまづきにより、立ち直れないほどのショックを受ける学生は少なくない。冒頭の就活を苦にした自殺の問題だけでなく、うつやひきこもりを招くことも知られている。久保さんは就活の実態を調べる中で、「就活の失敗によるダメージは学生個人の問題だけではない」と気づいていく。

久保 最終面接で不採用になるということは、その会社にかけた時間が一切無駄になるということです。もちろん、学生にとっての損失はそれだけではなく、一社にかけた情熱が落胆に変わったり、地方住まいの学生であれば多額の交通費をドブに捨てた感覚になったりします。

 調べていく中で、就活生の7人に1人にあたる14.4%が「就活うつ」に陥っていることがわかりました*3 。うつは、過剰なストレスや過労が原因になると言われています。「就活うつ」は過剰なストレスにより引き起こされると言えるでしょう。この過剰なストレスは、特に「思いもよらぬ出来事」に起因することが多いことはわかっています。

「思いもよらない出来事」は、いわゆる挫折をしたことがない大学生にこそ起こりやすいと言えます。たとえば、受験などで思いどおりの大学に受かった高学歴層の大学生の場合、周囲も狙いどおりに大企業に就職する友人が多く、自分自身への期待値も大きくなりがちです。そのため、就活の際の不採用通知は「思いもよらない出来事」となり、うつを誘発します。ABABAは、登録後に不採用になった事実をポジティブな体験へと転換します。つまり、学生のメンタルヘルスのケアにもつながると言えるのです。

*3 NPO法人POSSEの調査より

 社会的な尺度で見ると、若い世代の自殺は多額のGDP損失につながっている。これは就活生個人の問題というよりも、日本全体の社会課題であり、早急に解決しなければいけないだろう。

 とは言え、企業側の視点に立てば採用できる枠は限られており、どうしても一定数の学生を不採用にしなければいけないのも事実だ。採用現場では「採用したい」という思いを持って選考ステップを進めていったものの、最終的に役員との相性が合わず、不採用にせざるを得ないというケースもある。また、新型コロナウイルス感染症の影響のように、予想外に景気が変動し、採用人員を絞るしかない事態もあるだろう。

久保 「就活うつ」を防ぐために何ができるのかのヒントを探ろうと、企業の人事担当者にヒアリングをしました。僕は「お祈りメール」はてっきり機械的に送られているものだと思っていたのですが、実態は全く違っていました。人事担当の方の中には、「いつも泣きながら送っています」とおっしゃる方がいたり、「素晴らしい学生でしたから、他の企業に紹介したいと思っていたんです」と候補者への思い入れを語ったりする方もいました。

 こうしたヒアリングを通して、最終面接まで進んだ学生は、現場の担当者には「実力がある」と認められていることが多いとわかりました。そこで、「もし、他社の最終面接で落ちた学生を採用したいと思いますか?」と質問をすると、「一定の能力が担保されているので、ぜひ採用したい」といった本音を聞くことができました。これにより、ABABAの構想を実現することとしたのです。