航空業界や鉄鋼業界は
「苦肉の策」として重視

 航空業界などがカーボン・クレジット取引を増やす背景には、世界的な脱炭素の加速がある。ある国が脱炭素に取り組む姿勢を強めると、他の国や地域はその上をいく姿勢で脱炭素を進め、国際世論を主導しようとする。加速度的な脱炭素の進行に危機感や焦りを強め、民間認証のカーボン・クレジットを買わざるを得ない企業が増えている。

 21年4月、わが国は30年度の温室効果ガス排出量を13年度比で46%削減し、50年のネットゼロを目指すと表明した。その後、アジアでは、韓国が50年までに石炭火力発電を廃止し、30年までに温室効果ガス排出量を18年比で40%削減すると発表した(従来目標は26.3%削減)。中国も海外での新しい石炭火力発電建設を行わないと表明した。

 それに対抗するかのように、欧州委員会は脱炭素の取り組みを一段と強化し、新興国の脱炭素を支援することによって石炭火力発電所の廃止を前倒しで実現しようとしている。さらに欧州委員会は49年までに天然ガスの長期契約を原則として終了することも目指している。

 その一方で、企業が脱炭素に取り組むには時間とコストがかかる。脱炭素によって、既存のビジネスモデルの維持が困難になるのではないかとの懸念が高まる業種も出始めた。その一つが鉄鋼業界だ。世界的に、鉄スクラップを溶解して鋼材を生産する「電炉法」を重視する鉄鋼メーカーが増えている。なぜなら、石炭を用いる高炉法では大量の二酸化炭素が排出されるからだ。

 ただし、電炉法では不純物が混入し、超ハイテン鋼材など高付加価値型の鋼材生産に課題が残るといわれている。水素製鋼を目指すにしても、わが国や新興国にとって水素の製造や調達のコストは高い。脱炭素が加速する中で化石燃料を用いた事業運営に対する批判をかわすために、「苦肉の策」としてカーボン・クレジット取引を重視せざるを得ない企業は増えるだろう。