『週刊ダイヤモンド』11月6日号の第1特集は「脱炭素地獄 生き残りランキング」です。脱炭素に対応しない“非エコ企業”の株価急落・業績悪化は避けられなくなりました。特集では、トヨタを例に日本企業が直面している「脱炭素地獄」の実態を徹底解説すると共に、日本企業の「脱炭素」脱落危険度を初めてランキング化しました。(ダイヤモンド編集部副編集長 浅島亮子)
日鉄提訴、半導体払底、中国部品調難…
全ての発端が「脱炭素シフト」

8月下旬、トヨタ自動車が半導体不足などの部品調達難を理由に9月の世界生産を4割減らすと表明すると、市場関係者の間では失望感が広がった。トヨタの減産幅は計画比で9月35万台、10月33万台を予定している。
今期前半からホンダや日産自動車など競合メーカーが軒並み減産体制を強いられる中、優等生のトヨタだけは強気な生産計画をぶち上げていただけに大減産の衝撃は大きかった。それから2カ月が経過したが、いまだ半導体不足の解消には至っていない。
10月に入って、さらに不穏なニュースが続いている。中国の電力制限により、半導体のみならず自動車部品の供給が滞ってしまったのだ。ある自動車メーカー社員は「汎用部品を通常の100倍程度の価格で調達するケースも出てきた」と嘆く。
そして、極め付きはトヨタが重要サプライヤーである日本製鉄に提訴されたことだ。詳細は後述するが、両社の対立には、提訴理由である特許権侵害以上に根深い事情がある。
半導体不足、中国の電力制限、日本製鉄によるトヨタ提訴――。その全ての発端となっているのが世界的な「脱炭素シフト」だ。トヨタは今、「新たな六重苦」にさいなまれている。
トヨタをはじめ国内自動車メーカーが「製造業の六重苦」に見舞われたのは、2011年の東日本大震災の発生後のことだった。六重苦とは、超円高、法人税率の高さ、労働規制、自由貿易協定の遅れ、環境規制、電力問題のことを指す。
特に、円高の進行と電力供給不足に伴うコスト増が、自動車メーカーの業績を直撃。「日本でものづくりをして輸出で稼ぐ」という国内製造業の加工貿易モデルの限界が露呈したのだった。
それから10年。世界的な脱炭素シフトにより、日本企業は「新たな六重苦」に見舞われることになった。その事業環境の厳しさは当時の比ではない。
きっかけは、19年の欧州グリーンディールだ。50年の「カーボンニュートラル(炭素中立。温室効果ガスをゼロにする)」の実現を世界に先駆けて宣言したことだ。
これを境に、環境負荷の低減を経済成長の糧にするグリーン経済戦争が勃発。脱炭素をお題目に掲げながらも、その内実はエネルギーと技術の覇権を懸けた国家間争いである。
どの主要国にとっても、自動車は国力を象徴する基幹産業だ。そしてトヨタは、ガソリン車とハイブリッド車(HV)で一時代を築いた絶対的王者。グリーン経済戦争のゲームチェンジャー――、すなわち主要国や競合企業、モビリティー参入企業――にとって、トヨタは戦いの土俵から引きずり降ろしたい“格好の標的”なのである。
果たして、トヨタに迫り来る「脱炭素の六重苦」とは何なのか。