“売れない営業マン”そのものの風貌
山口さんは早稲田大学を卒業し、出版社で編集や企画の仕事をしていたのですが、緑内障を患い、医者から「このまま目を使う仕事をすると視力がなくなるよ」と言われ、やむなく退社。目を使わない唯一の仕事は人と話す営業だということで、一転、営業マンに転身した46歳のおじさんです。
その風貌はひと言でいって“売れない営業マン”。20代、30代の若手社員が多い社内でのニックネームは誰がつけたか「ケムンパス」。やせ型で寂しげなバーコードおじさんが、ちょっと古くなった靴をはいてぽこぽこと歩く姿は、覇気があって元気いっぱいというにはほど遠いムードです。おまけに、ねっとりとした話し方が、ことさらオッサン臭さに拍車をかけていました。
もちろん、それが「悪い」ということではありません。それは彼が自然にかもし出す雰囲気なのです。彼にとっては「悪意のない」ことです。しかし、悪意がないからこそやっかいで、誰も彼が嫌いだと言ったりはしませんが、そんな彼の雰囲気が、元気いっぱいの営業組織に大きな影響を与えてしまうほど、異質なものだったのです。
ねっとりとした、なんともいえないリズム感……。例えば、ミーティングで部員たちの前で営業報告をするときも「それでぇ~、あのぉ~」とねっとりするので、その場の空気が、なんだか切れ味のないものに変わってしまうのです。周りのみんなが「あっはは……」と笑うときにはなぜか「にゃはは……」と笑います。笑顔はある意味とってもかわいいのですが……。
それでも営業が初めてだった彼は、私の指導にも忠実で、めきめきと結果を出してくれました。電話営業でのアポイントがどんどんとれ始めたのです。ところが、その後にお客さんを訪問するところから、なぜか雲行きがおかしくなるのです。そしてほとんどが契約に至りません。
確かに最初から問題は見えていました。彼に初めて会ったときに「これは手ごわいぞ」と思ったのも事実。外見のイメージや雰囲気を変えないことには、売れるようにはならないのです。そこで、ごくごく当たり前にそのねっとり感からの脱出戦略が始まりました。