変身の第一歩は外見から

 私は彼をもうちょっとだけ洗練されたムードにしたいと、服装や歩き方を指導しました。全身が映る鏡の前で何時間も歩き方を練習し、その後は部屋の入り口から入ってくる練習。

「こんにちは。山口です」という単なる挨拶が、活気ある挨拶に聞こえるようにするため、彼は私に「こんにちは~」「おはようございます」「お世話になります」と何度も何度も同じことを言わなければいけませんでした。
 同時に、だらしなく見える服装をなんとかしなければいけません。

「山口さん、スーツは何着持っていますか?」
山口「はぁ?夏用と冬用のを合わせて4着くらいかなあ……」
「最近、新しいのを買いました?」
山口「う~ん……いえ、最近は買ってないですね~。自慢じゃないけど太らないから10年前と同じ体型なんですよ。エヘヘ。だから何10年も同じのでいいんです。経済的でしょ?にゃはは……」
「……うん、わかった。お金ができたら新しいスーツを買おうね。あと、その靴なんだけど……靴が綺麗な人はやっぱ成績がいいの。その靴、古い感じがするから、それだけは新しくしてほしい。お願い」
山口「はぁ……結構、気に入っているんですけどねぇ。安かったし。これ、15年前にバーゲンで2000円くらいだったんですよ」
「げっ、15年前?なんかその靴は……ほら、『足元を見られる』っていうでしょう?見るからにくたびれた靴じゃだめなんです」
山口「……はい、わかりました」(ちょっと、しぶしぶ……)