自身が人見知りで「けっして営業向きではなかった」という和田裕美さん。そんな彼女ならではの親身な指導で、大変身した営業マンの実話。突然、編集から営業に転身しなければならなかった山口さんは、どうしてデキル営業マンに変わることができたのか?
締め日に電話が殺到する
その日は月末で、営業マンたちはいつもよりちょっと殺気だった雰囲気でした。
月末というだけでなく、四半期の締め日でもあったので、ラストの追い込みにみんな忙しそうにしていました。そういえば、今日はいつもと違って、朝からかかってくる電話が多いようで……。
「和田さん、ちょっと来てください」
と営業部の若い青年が駆け込んできました。
「いったい、どうしたの?朝からずいぶん騒がしいわね」
「それが変なんです」
「変って何?ここは営業部だから、こっちからかける電話が多いのはいつものことだけど、なんだか今日は、かかってくる方が多いみたいね。まさか……クレームの嵐!?」
「いや、そうじゃないんです……。とにかく、来てみてください」
15人ばかりの営業担当者が机を並べる隣の部屋に入ってみると、客先への営業を控え、部屋に残っていた数人が、かかってくる電話への応対に忙殺されています。
――「はい、戻りましたら連絡させます」
――「申しわけありません。ただ今、山口は外出しておりまして……」
呆然とその様子を見ていると、かたわらからさっきの青年が、
「どういうわけか、今日は朝から、山口さんへの電話ばっかりなんです。『山口さんをお願いします』とか『ケムンパスちゃんはいないのか』って。山口さん、何かやっちゃったんでしょうか?」
「そんなこと知らないわよ。まさか……。で、なんて言ってるの、聞いてみた?」
「はい、それがどの電話もみんな『山口さんに直接話すから』って、用件は言ってくれないんですよ」
「で、本人はどうしたの?」
「それが……今朝は直接、お客さんのところを回っていて、午後にならないと戻らない予定なんです。それでさっきから携帯に連絡入れようと思っているんですけど、電波が通じなくて……」
――何かまずいことでも起きたのかなあ。山口さん、「今月は期待しててください」って言ってたのに……。そんな不安を感じながらも、どんなに外出して忙しくても、昼と夕方には連絡事項の確認のため、社に電話を入れるというルールがあることを思い出し、
「そう。じゃあ、仕方ないなあ。でもお昼には必ず連絡は入るはずだから。連絡が入ったら、こっちにつないでね」
と言いながら、プレッシャーに負けて突然来なくなる営業マンを過去に何人も見てきた私は、「山口さんがそうじゃなきゃいいけど」とも思っていました。
部屋に戻って一人になると、これまで山口さんとやってきたトレーニングのことが思い出されてきます。