美へ投資することで、大きなリターンを得られる

 本社社屋の美へのこだわりは、建築だけではありません。

 本社屋1階にあるHOSOO FLAGSHIP STOREでは、オフィスのエントランスに花を活けています。

 植栽の専門家に毎週来てもらって、活け替えているのです。季節感を感じられるようにするために、毎週違う花になっています。

 エントランスは通りすぎる場所ではありますが、きものを扱う私たちにとって、季節感は重要です。花が季節感を感じ、感性を養うことにつながるのならば、そこには明確な意味があるのです。

 もう一つこだわっているのは香りです。オーストラリアのアロマメーカーに調合してもらった香りを、店舗全体に香らせています。

 また音の面でも、店舗はもちろん、きもののショールームやオフィスのエントランスにも、それぞれに合わせた環境音を流しています。ミュージシャンに依頼してつくってもらった音を使っています。

 さらに、工房の職人が着るユニフォームにもこだわっています。

 パリコレにも出ているデザイナー、三原康裕氏に特注で白衣のユニフォームをデザインしてもらいました。「職人がスーパースターになるように」との願いを込めて、靴はアディダスの「スーパースター」というスニーカーを選んでいます。

 花、香り、音、職人のユニフォーム。そのどれもがふつうの企業であれば、そこまで投資されるものではないかもしれません。

 けれども、美へ投資することで、実は大きなリターンを得ることができているのです。

細尾真孝(Masataka Hosoo)
株式会社細尾 代表取締役社長
MITメディアラボ ディレクターズフェロー、一般社団法人GO ON 代表理事
株式会社ポーラ・オルビス ホールディングス 外部技術顧問
1978年生まれ。1688年から続く西陣織の老舗、細尾12代目。大学卒業後、音楽活動を経て、大手ジュエリーメーカーに入社。退社後、フィレンツェに留学。2008年に細尾入社。西陣織の技術を活用した革新的なテキスタイルを海外に向けて展開。ディオール、シャネル、エルメス、カルティエの店舗やザ・リッツ・カールトンなどの5つ星ホテルに供給するなど、唯一無二のアートテキスタイルとして、世界のトップメゾンから高い支持を受けている。また、デヴィッド・リンチやテレジータ・フェルナンデスらアーティストとのコラボレーションも積極的に行う2012年より京都の伝統工芸を担う同世代の後継者によるプロジェクト「GO ON」を結成。国内外で伝統工芸を広める活動を行う。2019年ハーバード・ビジネス・パブリッシング「Innovating Tradition at Hosoo」のケーススタディーとして掲載。2020年「The New York Times」にて特集。テレビ東京系「ワールドビジネスサテライト」「ガイアの夜明け」でも紹介。日経ビジネス「2014年日本の主役100人」、WWD「ネクストリーダー 2019」選出。Milano Design Award2017 ベストストーリーテリング賞(イタリア)、iF Design Award 2021(ドイツ)、Red Dot Design Award 2021(ドイツ)受賞。9月15日に初の著書『日本の美意識で世界初に挑む』を上梓。