1200年続く京都の伝統工芸・西陣織の織物(テキスタイル)が、ディオールやシャネル、エルメス、カルティエなど、世界の一流ブランドの店舗で、その内装に使われているのをご存じだろうか。衰退する西陣織マーケットに危機感を抱き、いち早く海外マーケットの開拓に成功した先駆者。それが西陣織の老舗「細尾」12代目経営者の細尾真孝氏だ。その海外マーケット開拓の経緯は、ハーバードのケーススタディーとしても取り上げられるなど、いま世界から注目を集めている元ミュージシャンという異色の経営者。そんな細尾氏の初の著書『日本の美意識で世界初に挑む』がダイヤモンド社から発売された。閉塞する今の時代に、経営者やビジネスパーソンは何を拠り所にして、どう行動すればいいのか? 同書の中にはこれからの時代を切り拓くヒントが散りばめられている。同書発刊を記念してそのエッセンスをお届けする本連載。好評のバックナンバーはこちらからどうぞ。

正反対の分野と組む逆転の発想で、大きなイノベーションを起こしたレクサス「LS」の事例写真提供:細尾

高級車レクサス「LS」の内装に、
西陣織が初めて使用される

 正反対の分野と組む逆転の発想で、大きなイノベーションを起こすことができた例が、レクサスと細尾との協業でした。

 二〇二〇年に発売されたトヨタの高級車レクサス「LS」の内装に、西陣織が初めて使用されたのです。

 このコラボレーションでは、工芸が入ることで工業製品がより進化し、かつてなく新しいラグジュアリーカーを生み出す起爆剤になりました。

 西陣織の実車搭載は、今まで不可能だと言われてきました。というのも車というのは、耐火性や湿度耐性のテストをはじめ、「ここまでやるか」と思うくらい様々な観点からテストを行なった上で作られている精密な工業製品だからです。

 車に必要な機能性を持たせるためには、通常、西陣織の特徴である「シルク」を内装に使うことはできません。耐火性など様々なハードルがあり、だからこそみんな「不可能」だと考えるのです。

 でも私たちは、自動車の素材メーカーと開発段階から協業し、素材から新しく開発し直すことで、結果的に西陣織の実車搭載を実現することができました。