1200年続く京都の伝統工芸・西陣織の織物(テキスタイル)が、ディオールやシャネル、エルメス、カルティエなど、世界の一流ブランドの店舗で、その内装に使われているのをご存じだろうか。衰退する西陣織マーケットに危機感を抱き、いち早く海外マーケットの開拓に成功した先駆者。それが西陣織の老舗「細尾」12代目経営者の細尾真孝氏だ。その海外マーケット開拓の経緯は、ハーバードのケーススタディーとしても取り上げられるなど、いま世界から注目を集めている元ミュージシャンという異色の経営者。そんな細尾氏の初の著書『日本の美意識で世界初に挑む』がダイヤモンド社から発売された。閉塞する今の時代に、経営者やビジネスパーソンは何を拠り所にして、どう行動すればいいのか? 同書の中にはこれからの時代を切り拓くヒントが散りばめられている。同書発刊を記念してそのエッセンスをお届けする本連載。好評のバックナンバーはこちらからどうぞ。
最先端の織機や紡績機がつくれるのだから、
自動車もつくれるはず
前述したように、日本が世界に誇る自動車メーカーのトヨタ自動車のルーツは、豊田佐吉氏が創業した豊田自動織機でした。この会社は当時最先端の蒸気テクノロジーを使い、紡績機など、日本の近代化を支える大量生産のための機械を次々と開発していきました。
ただ次第に、織物も紡績も、さらなる発展が期待できる産業ではなくなっていきます。
それで「ウチの技術を使って、もっとすごい製品ができないだろうか」と考えて、たどり着いたのが、当時やっと日本でも製造されるようになった自動車だったのです。
道のりは簡単ではありませんでしたが、いまやトヨタは世界有数の自動車会社に成長しました。最先端の織機や紡績機がつくれるのだから、自動車もつくれるはずだ……。その根拠は確実でありませんし、妄想といえば妄想です。
けれども「自分たちは日本のトップに位置する機械メーカーである」という軸は、しっかり持っていたわけです。だから未知の分野に挑戦する際のプロセスも、頭にきちんと描くことができたのでしょう。