教師・保護者・生徒が話し合う様子写真はイメージです Photo:PIXTA

「うちの子には事情がある」「習い事があるから宿題を減らしてほしい」――保護者の要望には、それぞれもっともな理由がある。だが、その一つひとつに応えていけば、学校全体のルールや他の子どもたちとの公平性はどうなるのか。配慮と特別扱いの境界線に悩み、板挟みの中で判断を迫られる教師たち。本稿では、教育現場で実際に起きている事例をもとに、学校が直面する難題を追う。※本稿は、作家の西岡壱誠『カスハラ化する保護者たち』(星海社)の一部を抜粋・編集したものです。

配慮なのか特別扱いなのか
学校が悩む境界線

 教頭になって2年目の春だった。

 年度初めの慌ただしさが少し落ち着き始めたころ、相談は同じ週に立て続けにやってきた。

 最初にやってきたのは、1年生の担任をしている若い国語教師だった。

 昼休みの終わり、職員室の一番奥で、彼女はクリアファイルを抱えたままI教頭のところへ来た。

「少しご相談してもいいですか」

 声が硬かった。

 保護者対応に慣れた教師は、相談の入り口で分かる。これは困っている声だ、とI教頭は思った。

「どうした」

「1組のJくんのお母さんから連絡があって……。作文や感想文の課題を、軽くしてほしいと言われたんです。発達障害で文章を書くのが難しいからって」

 I教頭は、椅子を引いて座るよう促した。

「診断は出ているのか」

「そこが、はっきりしないんです。病院で正式に診断を受けているわけではないみたいで。でも、お母さんは『本人はすごく苦しんでいる』『文章を書くたびに自己否定になる』って」

「本人の様子は?」

「字はたしかに雑です。文章も短い。でも、まったく書けないわけじゃないんです。授業中に口で聞けば答えられるし、友だちとも普通に話しています。だから、私としても、どこまで配慮として受け止めるべきなのか迷っていて……」