認知科学をベースに「無理なく人を動かす方法」を語った『チームが自然に生まれ変わる』は、マッキンゼーやネスレ、ほぼ日CFOなどを経て、エール株式会社の取締役として活躍する篠田真貴子さんも絶賛する「新時代のリーダー論だ。
多くのマネジャーが「従来のリーダーシップでは、もうやっていけない…」と実感しているいま、部下を厳しく管理することなく、それでも圧倒的な成果を上げ続けるには、どんな「発想転換」が求められているのだろうか?

部下を緊張させる人がやってしまいがちな「WHY」の問いかけPhoto: Adobe Stock

リーダーは「面談の3タイプ」を使い分けよう

 1on1の面談にはだいたい3つくらいのパターンが考えられる。

 1つは、相手のWant to(心からやりたいこと)を探索する1on1だ。組織のパーパスとの重ね合わせプロセスのなかで、個人のゴールを明確化していく。これはコーチングで行われるセッションなどにも近い。

 第2に、業績管理や人事評価のためのもので、かなり一般的に行われている面談である。MBO(Management by Objectives:目標管理制度)やOKR(Objectives and Key Results:目標と主要な成果)の内容に基づいて、半期ないし四半期ごとのサイクルで面談を行い、対象期間中の振り返りを行っている会社は多いだろう。

 こうした1on1の目的は、当初設定した目標を達成できたかどうかを確認し、自分の行動についての振り返りを促すことで、それを将来のアクションプランに反映させていくことだ。その意味でこれは「フィードバック(Feedback)」型の面談だと言うことができる。ここでの議題は、メンバーがそれまで取ってきた行動であり、過去に目を向けさせることにウエイトが置かれている。

 他方で、最後の「第3のタイプ」としてこれから説明するのは、いわば「フィードフォワード(Feedforward)」型の面談である。これは、メンバーにすでに起きたことを振り返らせるフィードバック型の面談と正反対のアプローチであり、パーパスをどんなふうに実現させていくか、実現したらどうなるかといった未来について対話する場だ。

 フィードフォワード型の発想とは「未来の記憶づくり」あるいは「未来からのフィードバック」だと言ってもいいだろう。通常のフィードバックでは、「こういう過去がある。ではこれからどうしていくべきか?」という順序で思考が進むのに対し、フィードフォワード的なアプローチにおいては「こういう未来が実現する。だとするとこれから何をしていけばいいか?」という順番になる。あるべき未来像から現在や近未来にやるべきことを逆算していく手法は、バックキャスティング(Back Casting)などとも呼ばれる。

「過去を語る面談」と
「未来を語る面談」を混ぜないこと

 個人のゴール世界に対する臨場感を高めていくときには、フィードフォワード型の1on1のほうが望ましい。

 そこで注意すべきなのは、第2の面談と第3の面談を混ぜないということだ。多忙なリーダーはつい、過去を語る場と未来を語る場を「ひとまとめ」にしようとしてしまう。しかし、これをやってしまうと、少なくともフィードフォワードの効果は失われてしまう。

 リーダーと1対1で向き合って「目標数値の達成度」や「予算未達の要因」を語り合ったあとでは、いくらパーパスの話をされたとしても、メンバーの心には響かない。リーダーからそうした話をされた瞬間に、部下のなかでは「現状」を肯定する内部モデルが立ち上がり、「未来」には目が向かない心理状態になってしまうからだ。

 フィードフォワード型の面談をするときには、徹底して未来志向で話をするようにしよう。会社や個人の業績の話題は持ち出さないようにし、あくまでも「どんなことをやりたいと思っているか」について訊ねていく。あくまでも一例だが、次のような問いについて語り合ってみよう。

「『この先3年、なんでも好きなようにやっていい』と言われたら、まず何をやりますか?」
「ゴール世界が本当に実現したら、世の中ではどんなことが起きると思いますか?」
「どういう状態になったら、そのゴールを達成したと感じますか?」
「そのゴールを達成してしまったら、さらにそのあとはどんな展開が考えられるでしょうか?」

 この1on1の場では「未来」の話だけをする。ゴール世界への臨場感を高めるうえで大切なのは、それが実現された世界をありありと思い描くことだ。上のような問いを与えられた相手は、それに答えようと頭のなかで想像を働かせはじめる。「問い→答え」のプロセスを繰り返すことで、ゴール世界の諸表象が精緻化されていき、しだいに脳がそこにリアリティを感じはじめる。

 こうして心理的ホメオスタシスの基準点が「現状の外側」のほうに移ってしまえば、ゴールに対するメンバーの自己効力感は高まっていく。「ひょっとしたら、自分にもできるかもしれない……」「きっとできるはず!」「もう、できる気しかしない!!」──そんな状態をつくれれば、あとは余計なことは何もしなくていい。メンバーはゴール達成に向けた行動を迷うことなく開始するだろう。