大きな越境と、小さな越境
NPO法人クロスフィールズ 共同創業者・代表理事
一橋大学社会学部・同大学院社会学研究科修了。青年海外協力隊として中東シリアで活動した後、マッキンゼー・アンド・カンパニーにて勤務。2011年5月、ビジネスパーソンが新興国で社会課題解決にあたる「留職」などを展開するNPO法人クロスフィールズを創業。2011年に世界経済フォーラム(ダボス会議)のGlobal Shaperに選出、2016年にハーバード・ビジネス・レビュー「未来をつくるU-40経営者20人」に選出される。国際協力NGOセンター(JANIC)の理事、新公益連盟の理事も務める。著書に『働く意義の見つけ方――仕事を「志事」にする流儀』(ダイヤモンド社)がある。
小沼:今の話を聞いて思ったんですけど、最近は越境にも2タイプがある気がします。ブリッジする型の「大きな越境」と、小さなコミュニティの中でボンディング(つながり)が深まるような「小さな越境」。
クロスフィールズは元々「セクターをまたごう!」とか「海外に行こう!」とかの「大きな越境」が好きで。でも最近注目しているのは「小さな越境」なんです。今まで会ったことがない地元の人と話をしてみたり、父親としてPTAに行ってみたりすると、また全然違うものが見えてきたりして。越境によって多面的になっていくのって面白いんじゃないかなって思っています。
大企業の中だと、部署や世代を越えてみるだけで全然違う、ということもありますよね。「大きな越境」に夢を見るのも大事なんですけど、一方で「自分の身の周りにある異なる世界」に気づいていくことも価値がある、と最近は感じています。
原田:越境って「はみだしていく」ということなんだな、と思っています。僕らもクロスフィールズさんも、飛び出すというよりは「戻ってくる」というセーフティーネットがある中で「ちょっとはみだしてみる」という。すると自分の軸がどこかっていうのが見えてくる。越境って実は、気軽な行為なのかな。
塩瀬:大越境でも小越境でも、行く本人はすごく成長しそうな感じがあるんですけど、送り出す側にはちょっとしたモヤモヤもあると聞きます。送り出した側のメリットとか、送り出した側としてどうやって維持していけばいいのかとか。
原田:3カ月、半年、1年でも、全然違う環境に行って本気でやって帰ってくると、すごく変わります。本人も「人生が変わる時間でした」みたいな感想をくださるんですよ。
一方でそれを生かせるかどうかは、本当に難しいところなんです。帰ってきてまたすぐに馴染める程度だったら、わざわざ外に行かせる必要はないじゃないですか。でも全然違う異分子になって帰ってきて、何かハレーションが起こるから意味があるんですね。そうして苦労すること自体が、すごく健全なんじゃないかと思います。
小沼:越境業界ではよく「越境者は2度死ぬ」と言われています。1回目は越境した瞬間。全然違う環境でいろいろなチャレンジがあって苦しむんです。そして2回目は、元の組織に帰った後に逆カルチャーショックでまた苦しむっていう。
ここで大事なのは、2回目は本人だけじゃなく組織も一緒に苦しんであげることだと思います。変わってきた人を受け入れようとすると、組織の側も苦しいはず。でも一緒になって乗り越えることができると、越境が本当に「組織知」になってくるんです。
もし本人だけが苦しむと、最悪の場合は辞めてしまうこともあるかもしれません。組織側は、本人の可能性を信じて送り出し、彼ら彼女らが越境後に活躍できる職場づくりに取り組むことがとても大事です。
正能:その出入りをいかに非日常から日常にするかが、私は大事だと思っています。組織にとっても個人にとっても、非日常だからしんどいんじゃないのかな。でも日常として本人も周りも慣れてくると、越境に伴うストレスが減るのかなって。
ただ、そういう人たちって、越境経験というイレギュラーな経験を使って、業務を回していたりするので、成果の評価は高いのにプロセス評価は低かったりして。そんな「あの手この手で、結果だけは残します」タイプの人に対して、組織の評価制度とか報酬制度とかが追いつけていないと難しいところもあるな、と思うこともあります。
塩瀬:そういう人たちに活躍してほしいなら、ということですよね。制度がないと、そういう人たちとは一緒に働けないという宣言だと受けとられるかもしれなくて、それはもったいないなって気がします。