職人たちの喜びに満ちた仕事、
美の追求を大切にしながら利益も還元する

 さらにはソロメオ村に劇場や、職人を養成する学校など数々の施設を創設し、地域の振興にも貢献しているのです。

 ブルネロ クチネリが凄いのは、そのような美意識や倫理観を持ちながらも、あるいは持っているがゆえに、ビジネスで大きな成功を収めていることです。

 ブランドの年間の売上は七〇〇億円にも上ります。営業利益率も非常に高いです。

 いわば、世界中の人がブルネロ クチネリを支持しているのです。というのも、これまで高価格の商品を販売するブランドの中には、たとえば「メイド・イン・イタリー」と言っても、東ヨーロッパや、アジアの労働者を搾取することによって生産されてきたものがあります。

 そしてそのことは、情報が世界中に行きわたっている現在の社会では、多くの人が知っていることです。

 ブルネロ クチネリは、そのようなこれまでのブランドとは異なります。

 職人たちの喜びに満ちた仕事、美の追求を大切にしながら、利益も彼らに還元していく。そういう考え方だからこそ、ジャケットでも何十万円もするのだということを明示し、世界を納得させているのです。

 ブルネロ クチネリの考え方は、世界中の貴族や富裕層から支持され、大きな成功へとつながっています。

 「人間主義的資本主義」とだけ聞くと、「それでうまくいくのかな」と思う方も多いと思います。ところが、むしろその徹底した美意識こそが、ビジネス上の大きな成果をもたらしているのです。

細尾真孝(Masataka Hosoo)
株式会社細尾 代表取締役社長
MITメディアラボ ディレクターズフェロー、一般社団法人GO ON 代表理事
株式会社ポーラ・オルビス ホールディングス 外部技術顧問
1978年生まれ。1688年から続く西陣織の老舗、細尾12代目。大学卒業後、音楽活動を経て、大手ジュエリーメーカーに入社。退社後、フィレンツェに留学。2008年に細尾入社。西陣織の技術を活用した革新的なテキスタイルを海外に向けて展開。ディオール、シャネル、エルメス、カルティエの店舗やザ・リッツ・カールトンなどの5つ星ホテルに供給するなど、唯一無二のアートテキスタイルとして、世界のトップメゾンから高い支持を受けている。また、デヴィッド・リンチやテレジータ・フェルナンデスらアーティストとのコラボレーションも積極的に行う2012年より京都の伝統工芸を担う同世代の後継者によるプロジェクト「GO ON」を結成。国内外で伝統工芸を広める活動を行う。2019年ハーバード・ビジネス・パブリッシング「Innovating Tradition at Hosoo」のケーススタディーとして掲載。2020年「The New York Times」にて特集。テレビ東京系「ワールドビジネスサテライト」「ガイアの夜明け」でも紹介。日経ビジネス「2014年日本の主役100人」、WWD「ネクストリーダー 2019」選出。Milano Design Award2017 ベストストーリーテリング賞(イタリア)、iF Design Award 2021(ドイツ)、Red Dot Design Award 2021(ドイツ)受賞。9月15日に初の著書『日本の美意識で世界初に挑む』を上梓。