「クレベリン」は流れ弾にあたった?

 財務省の改ざん問題などを見てもわかるように、官僚というのはどうしても政治家の顔色をうかがいながら仕事を進めなくてはいけない。有力議員に逆らえば簡単に島流しにされてキャリアはパア、逆に忖度ができれば異例の出世もある。

 そういう世界で生きる消費者庁幹部のもとに、「自民党総務会長代理」という重い看板を背負い、50人近い議連を率いる元官僚の議員が、「空間除菌の科学的有効性を認めよ」と迫ってきた、としよう。

 先ほども申し上げたようにこれに関して医療界は否定的だが、国会議員が首を突っ込んできた以上、厚労省も経産省も、そして消費者庁も「そんなの認められるわけないでしょ」と、あしらうこともできない。そうこうしているうちに議連とガッチリ手を握る業界団体が、「厚労省が次亜塩素酸の空間噴霧を認めた」とまで主張してきた。このままいけば、押し切られてしまう恐れも出てきた。

 政治力学とエビデンスの板挟みで、消費者庁幹部は頭を抱えたはずだ。しかし、そこは受験勉強で鍛えた優秀な頭脳である。片山氏や空間除菌議連の顔を潰すことなく、除菌連合を敵に回すことなく、どうにかしてこの無理筋の要求をのらりくらりとかわす方法がひねり出される。それが「クレベリン」を利用して、「空間除菌」の社会的信用を貶めるというスピンコントロール(情報操作)ではなかったか。

「空間除菌」を代表する「クレベリン」にとにかく措置命令を下して、マスコミに「空間除菌、根拠なし」と書かせれば、世論は空間除菌にネガな印象を抱く。自分たちの手を汚すことなく、除菌連合や片山氏たちの「空間除菌の有効性を認めよ」というロビイングの足を引っ張ることができる。「選挙に落ちればタダの人」の政治家は結局、人気商売なので、あまりに「空間除菌」に対して世論の逆風が吹けば、沈黙せざるを得ない。つまり、「クレベリン」の社会的イメージを貶めるだけで、厚労省や消費者庁は除菌連合と議連に対して「戦わずして勝つ」ことができるのだ。

 おりしも、「クレベリン」と大幸薬品は昨年から、さまざまな医療機関に無償提供したり、その功績が認められて政府から紺綬褒章を授与されたりして、一部の「空間除菌」に否定的な人々から批判されていた。「空間除菌」のネガキャンには、まさにうってつけの存在だ。

 もちろん、これはすべて筆者の想像である。しかし、今回の措置命令のタイミングといい、不可解なまでの強引さは、このような「官僚の事情」があったと考えれば、つじつまは合う。

 いずれにせよ、コロナ禍が続く中で、「空間除菌」の有効性をめぐるバトルも続いていく。今回、流れ弾に当たったのは、「クレベリン」だが、近いうちに他の除菌・殺菌製品、ウィルス対策製品も否応なしにこの「不毛な戦場」の最前線に駆り出されていくのではないか。

(ノンフィクションライター 窪田順生)