政治家が「幽霊が子どもを処分する場所」
呼ばわりで、SNSが炎上

 ジャワ出身のインドネシア人に聞いてみると、カリマンタンに行ったことがないという人も多い。いわく、「特に観光地があるわけでもないし、仕事で用がある人しか行かない」。そもそもジャワ島からカリマンタンは遠い。カリマンタンに行くよりマレーシアなどの海外へ行くほうが飛行機代が安いくらいなのだ。平均的なインドネシア人の目には、“石油や石炭などの資源が豊富で、森林に希少動物のオランウータンが生息する場所”程度に見えている。

 そういう認識もあってか、福祉正義党(PKS)のエディ・ムルヤディ氏がカリマンタンを「幽霊が子どもを処分する場所(tempat jin buang anak)」と話す動画がここのところSNSで大炎上している。これはジャカルタで使われる慣用表現で、「人里離れた場所」といった意味を持つが、見下されたと感じたカリマンタン市民の怒りが噴出し、通報する人まで現れた。

 今回のプロジェクトは想像を絶する規模だ。新首都の広さは約25.6万ヘクタールで、これは東京都(約21.9万ヘクタール)がすっぽり入るサイズ。総工費は少なくとも466兆ルピア(約3兆7000億円)に上り、これはインドネシアの国家予算の4分の1ほどに相当する。「グリーンシティー」を標榜し、IT技術を積極的に導入する予定だ。

 新首都の名前に採用された「ヌサンタラ(Nusantara)」とは、サンスクリット語を起源とする言葉で、もともとは「群島」を意味していたが、現代では列島国インドネシアを指す。言語学者らが提案した約80の選択肢からジョコ大統領が選んだ。この言葉は日常会話ではあまり使われず、歌詞の中に登場したり、詩的な文脈で使われたりするイメージが強い。インドネシアが少し前まで開発を目指した国産ワクチンの名前も「ヌサンタラ・ワクチン」だった。

 ただこの名前に当惑するインドネシア人も多くいる。「群島」という都市名は紛らわしいからだ。また、東南アジアの広範囲を支配下においたマジャパヒト王国(13~16世紀)の頃にはすでに使われていた言葉なので、このような野心的な名前は国際上あまり適切でないという意見も出ている。