言い返したいのに、正しい英語がわからない

彼らが私を馬鹿にしていることには気が付いていたけれど、私は気まずくてずっと下を向いてスマホをいじっていたのだが、やっぱりカチンときてしまった。こんなことで腹が立つなんて、自分小さいなあとも思ったのだけれど。

当たり前のことだが、もし日本語であれば彼らは絶対に「なあ、この女の子誰?」なんて言わなかっただろう。そんなことを言えば私は気が付いて顔を上げ、「え? 私のことですか? な、なんかすいません」となるかもしれないし、常識的に考えても本人の目の前で本人を馬鹿にしたようなことを言うのはおかしい。だって、たったいま、会ったばかりの赤の他人なのだ。

そもそも彼が「この女の子誰?」と言ったのだって、純粋に「この女の子はどこからきたどんな子なのかしら」という意味で聞いたわけでは無く、「間に入ってきたよ、なにこの子(笑)」という意味できいてきたのである。その証拠に、英語で話す彼らは、単純に知らない女がうっかり間に入ってきたというだけで私を挟んで大爆笑。前に立つ男子なんて、わざとらしく首をひねって話しかけている。

単純にめちゃくちゃ失礼だし、すごくイライラしたので、私は、
「おい、お前らきこえてんぞ!!!」
と言ってやりたかったのだが、内心、

あれ? そういうの言うときって
“I can hear you! ”でいいの?

それとも
“I hear you! ”が正しいのかしら?

それか
“I heard that! ”もきいたことあるけど……。

ヤバイ、正解がわからん。

なんて考え出すと、言い返すのに英語が間違ってたらかっこわるい!!

みたいないらない英語コンプレックスが出て来てしまって、ああもう、だからこんな風に馬鹿にされるんだよー!! とパッと英語で言い返せない自分が嫌になってしまった。仮にも留学していたのに、情けない。

まあ私がそれくらいのことでフンスカと腹をたてたのも、結局その英語コンプレックスを刺激されたからなのだ。

日本に留学にきている私の友人のほとんどはとても気持ちがいい人たちで、私が英語ができなくてもゆっくり待ってくれるし、逆に私も相手の子の日本語がたどたどしくてもなんとも思わない。お互い様だからだ。

でももちろん、日本人のなかにも人の悪口を栄養にして生きる人がいるように、日本人を馬鹿にするのが楽しい留学生だっている。国籍問わず、世界には色々な人がいる。そういう人たちをいちいち相手にしていたらきりがない。

けれど、もし「どうせ日本人は英語わかんないだろう」と見くびられたことに私がひどく腹を立てたのなら、もっと平気で返せるくらいに英語を勉強するべきだと思ったし、それほど愛国心もないのにそこまで怒る資格もないかもなあ、と自己完結して、とりあえず言い返すのはやめようと思ったのだった。こんな公共の場で怒るのはみっともないし……。
やめようと思った。
思った……のだが。