統御に優れていた
二人の指揮官の振る舞い

 わび氏によれば、統率を司る3つの要素のうち、最も難しいのが「統御」であるという。

「私も10年以上自衛隊にいて、指揮と管理が素晴らしい方はたくさん見てきました。かつての勤め先や現在の会社でも、出世する人は指揮と管理が非常に上手だなという印象があります。ただ、部下を感化させる統御が上手な人はほとんどいませんでした」

 指揮と管理は「マネジメント」としてセミナーや本などで学べる。一方、属人的になりやすく、言葉で説明しづらい統御を学ぶことは難しいのだ。「過去に二人だけいた」という統御に長けた人物について、わび氏はこう語る。

「一人は私がかつて仕えていた師団長です。空挺団長などを歴任した厳しい方なのですが、部下のいろいろな点を見ておられるし、決して感情的に怒らない人でした。叱るときは『ここがダメで、次はこうしたほうがよい』とアドバイスもセットで教えてくださり、かつ大勢の前ではなく個人的に叱る。また、与えてくださる自主裁量の余地も絶妙で、いつもある程度の自由があり、積極的に仕事に取り組めるし、状況の変化にも対応できました。この人のためなら厳しい任務も耐えられるということを感じさせてくれる人でした。もう一人は、毎朝仕事が始まる前に、コーヒーをみんなで飲むという習慣を設けていた上司です。その際に、気になっている、引っかかりそうな案件などを部下たちから聞き出すのです。そして、『じゃあ俺も一緒に行くよ』と積極的に現場に来てくれたのです。また、その上司はよく『リーダーシップだけでは、良い仕事はできない。部下のフォロワーシップがあってこそのリーダーシップで、これが良い統率につながる』とおっしゃってました。これにより、本当に大変なときに助けてくれる上司としての信頼が強まりました」

 当然、わび氏も含め、この二人の上官への部下からの信頼は厚かった。ちなみに前者の元師団長は、現場主義を貫きたいと出世の道を断ったという逸話のある人物だが、結局は陸上自衛隊のトップの階級である陸将まで昇りつめた。指揮、管理、統御に優れた人物はやはりリーダーとして組織からも評価されるのである。