すでに「新たな始まり」の段階にあるトップ側は、M&Aを前向きに捉えられていない現場の状況を目にすると、「現場はなぜいつまでもM&Aに否定的なんだ」といった気持ちになりがちです。その結果、共感に欠いた態度でコミュニケーションを行ってしまい、現場との対立を生んでしまうことがあるのです。マネジメント層が、こうした情報共有の時差が生む意識のズレを理解しておけると、PMIのトランジション・マネジメントをスムーズに進めることができます。

 PMIプロセスの最中に新型コロナウイルスの影響を受けたある企業のメンバーが、情報共有の難しさを語ってくれました。

「経営層は、統合前、コロナ禍が起きる前に合宿をして、統合の進め方や統合後の経営方針、組織体制について、議論を深めていました。現場に対して統合が発表されたのは、コロナ禍以降の話なので、リモートワークが基本だと、現場では雑談もできていません」

 M&Aの情報にアクセスできるマネジメント層は、統合前に十分な情報に触れ、コミュニケーションを取り、自身のなかで納得度が高まっているかもしれません。しかし、M&A情報へのアクセスが限られる現場メンバーは、統合が発表されるタイミングでは、周囲のメンバーとM&Aに関するコミュニケーションがまったく取れていません。そのギャップをマネジメント層はしっかりと理解しておく必要があります。

 加えて、現在は、コロナ禍により多数のメンバーが対面で集まりにくい状況が続いています。オンラインでも情報共有やコミュニケーションの場をつくることはできますが、対面のほうが表情や身振り手振り、感情や想いなども含め、取り組みの意図が伝わりやすいのは事実です。よって、今後しばらくの間に取り組まれるM&Aは、コロナ禍の影響も加味し、情報共有・浸透がしにくくなるという前提で、コミュニケーション・プランを考えておく必要があります。

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第1回 M&Aを失敗させる『人と組織』の問題とは?

●本連載の第3回は3月22日(火)公開予定です。