起業するうえで武器になりえる「例外への感受性」

 宇都さんがフリーランスの道を選ぶと聞いたとき、私は妙に納得した気持ちになった。

私のところに集まってくる学生たちは、障がい者、不登校の子ども、ひとり親で経済的に困窮している家族など、さまざまな生きづらさを抱える人たちと出会い、問題意識を形成していく。生きづらさについて考えていくなかで、「普通」から外れることに対する感受性が磨かれていく。

 社会にはさまざまな枠組みがあって、その「当たり前の枠組み」を前提にすることが「普通」とされる。しかし、その「当たり前の枠組み」から外れる人も多く存在するのであり、そういった「例外」に対する感受性を高めていくことが、ダイバーシティ&インクルージョンの社会には必要なのだ、ということを学んでいく。

 けれども、「例外への感受性」を高めれば高めるほど、学生たちは卒業後の進路に悩むようになる。社会の仕組みが、一般的に「当たり前の枠組み」に即して動いているからである。「例外への感受性」を生かせるかもしれないと感じさせてくれる就職先には、なかなかめぐり合えない。

 今回の原稿を書くために、宇都さんの話を一緒に聞いた人がいる。湯川カナさんという大学院生である。湯川さんは豊富な経験を持つ起業家で、この3月に、自身の経験に基づいてアントレプレナーシップ教育論を修士論文にまとめた。その論文の核心は、「起業こそが社会を変えていくツールになりえる」ということだ。

 湯川さんは、宇都さんの語りの中に、社会を変えていく起業家の精神を見出し、次のように話す。

「自分で見て体験してしまったことを基点に、勝手に責任を持って動くのが起業家です。目的意識をはっきり持って、他人からの視線や期待に流されないことも、起業家には必要です。それと、起業すると必ず『それで食べていけるの?』って心配してくれる人がいますが、食べていけるかどうかなんてやってみないと分からないのが起業です。宇都さんは、まさに起業家だと感じました」

 湯川さんのアントレプレナーシップ教育論によれば、「例外への感受性」は起業するうえで武器になりえる。自分の経験や出会いに正直でないと、「例外への感受性」に突き動かされる生き方はできない。自分を突き動かす「例外への感受性」は、起業のエネルギーにもなるのだ。