生き方を信念に変えた出会いと学びを経て……
そもそも、宇都さんが遺伝カウンセラーの道に進もうと考えたのは、神戸大学での4年間で、一生懸命に取り組んだ活動があったからだ。それは、「のびやかスペースあーち」での居場所づくりの活動だった。「のびやかスペースあーち」は、神戸大学が運営する社会教育施設であり、「子育て支援をきっかけにした共に生きるまちづくり」という理念を標榜している。多様な人たちがお互いに関わり学びあう場になるように、さまざまなプログラムを展開している。その中のひとつに「居場所づくりプログラム」があり、宇都さんは大学1年生のときから毎週このプログラムに参加した。そして、「のびやかスペースあーち」に集まってくるさまざまな障がいのある子どもや青年、家族と、遊びや勉強などの活動を通して深く知りあった。
大学生になってすぐに「居場所づくりプログラム」に参加したのは、自分のことしか考えずに過ごしてきた自分自身に疑問を持っていたからだ。自己中心的な自分に嫌気がさしていた宇都さんは、「のびやかスペースあーち」に集まってくる障がいのある子どもや青年の自由なふるまいに魅力を感じた。
「とても印象深かったのは光輝くん(仮名)。人目を気にせずに自分の好きなことに猛進する子でした。その結果、誰かとしょっちゅうぶつかって喧嘩になるけど、すごいなぁと思いました。彼を見ていたら、自分が何者かということにこだわっている自分がバカらしくなってきたんです」(宇都さん)
他にも、人目をはばからずに恋話をしかけてくる高校生や、パソコンの世界にひたすら埋没する青年などと一緒に時間を過ごした。そうしているうちに、宇都さんは、周囲の人たちの目を気にして、「こういう自分でないといけない」という意識に縛られている自分の窮屈な生き方に気づき、「もっと自分らしくいていいんだ」と感じるようになっていった。
こうした経験を遺伝カウンセラーの道につなげたのが「授業での学び」だった。ある授業では、出生前診断について深く考えた。陽性の診断が出た妊婦のうち、9割が妊娠継続を諦めるという事実に触れた。障がい者との豊かな関わりの乏しさや、その乏しさから生まれる先入観が、選択に大きく影響するのではないかと疑問を持つようになった。
また、ある授業では、障がい者やその家族との豊かな出会いの経験とその意味を語る機会があった。自分の経験を語ってみて、自分が大切に考えていることを人にしっかり伝える力を養う必要があると感じた。
こうして宇都さんは、多様な命のかけがえのなさを他者に伝えていくことに磨きをかけ、自分の専門にしていこうと考え、遺伝カウンセラーの道に導かれていったのである。
2年間の遺伝カウンセリングの学びを終えたいま、宇都さんは経験と学びに支えられて生き生きと自分の考えを語る。
「1組のカップルから生まれる子どもの遺伝子の組み合わせは70兆通りもあるんですって。祖先一人ひとりがそういう確率で存在してきたわけですから、とっても多様で貴重な命のつながりの上に、私たちの存在が偶然成り立っているんですよね」(宇都さん)