去る1月、ビックカメラが「5年以内にメーカー派遣の販売員の受け入れを停止する」と発表し、話題を呼んだ。家電量販店では、すでにノジマが自社社員だけで店頭販売を行っており、接客内製化が進みつつある。だがよく考えると、派遣元の製品だけを薦めるスタッフが集まってお客を奪い合う接客スタイルは不思議である。家電業界では、なぜこんな慣行が定着したのか。そして、派遣販売員はなぜ切り捨てられようとしているのか。これらの理由を歴史的観点から詳しく解説する。(経済評論家 加谷珪一)
量販店の販売員が社員とは限らない
「派遣販売員」という不思議な慣行
ビックカメラがメーカーからの販売員受け入れを取りやめる。同社のような量販店はメーカーから販売員を派遣してもらい、商品の販売促進を行ってきた。“大量販売時代”が終わり、顧客への提案力が重視されるようになったことから、自社販売員への切り替えを進める。
量販店に行くと、多くの店員が接客業務を行っている。だが、店舗で見かける販売員の全員が量販店社員というわけではない。量販店のロゴや名前の入った制服を着ている人は量販店の社員だが、中にはメーカーのロゴや社名の入った制服を着ている人もいる。
こうした人たちは、量販店で売っている商品を製造するメーカーから派遣された販売員である。基本的に彼らはメーカーの人間なので、自社製品の販売促進のために存在している。
量販店によく行く人ならピンと来ると思うが、こうしたメーカー派遣の販売員は自社の製品しか薦めない。人にもよるが、他社の製品を買おうとすると強引に自社製品に誘導する人もいる。同じフロアには複数のメーカーから販売員が派遣されているので、場合によっては1人の顧客をメーカーの販売員が奪い合うこともある。
だが、よく考えてみると、こうした販売形態は他の業態ではあまり目にしない。
例えばスーパーマーケットではさまざまな企業の製品を売っているが、メーカーから派遣された複数の店員が、自社製品を買ってもらうため顧客を奪い合うことはない。唯一の例外はワゴンを使って行うキャンペーンなどで、この時にはメーカーから販売員が派遣されることがある(のぼりなどを立て、特定の食品の試食などを行っている)。
では、なぜ家電量販店ではメーカーから販売員を派遣するという慣行が存在しているのだろうか。