いきなり立教に連敗してしまう。早稲田は打順のめぐり合わせが悪く、チャンスに一打が出なかった。

「優勝もあると思った。この連敗、さすがにがっくりきました」

 立教戦翌日の9月21日、早稲田リーガロイヤルホテルのラウンジでの取材だった。

 打線の中核の担うはずの4年生・今井脩斗の姿がなかったことを尋ねると、小宮山は「外しました」ときっぱりと言った。

 ミートが巧く長打力のある右の大砲である。しかし守備に不安があった。スタメン起用ならば一塁を守らせたい。だが彼は開幕前の3日間の練習で、一度もファーストの守備に就こうとしなかった。

「そういう慢心を、許すわけにはいかない。この連敗を自分のせいだと思うかどうか。外されたのはなぜなのか。チームのために復帰しようと思うのなら、守備練習で目の色が変わるはず」

 その練習態度について、小宮山は理由を説明して叱りつけた。

 練習後、監督室を当人が単身で謝罪に訪れた。服装はTシャツにハーフパンツ。暑い盛りとはいえ、寮の自室の姿そのままの体だ。

「怒りが増幅して、話し合いは打ち切りです」

 小宮山は当時を振り返り、笑いさえ浮かべた。練習直後のユニフォーム姿でも構わないのに、わざわざラフな格好に着替えるところが理解できない。

「態度の悪さを叱ったのに、分かってない。このザマはなんだと失望しました」

 その翌日。本人、主将、そして学生コーチが学生服の正装で監督室を再訪する。

「許してあげてください。もう一度チャンスをください」と幹部2人が嘆願した。本人も「心を入れ替えて練習します」と頭を下げたので、小宮山は首を縦に振ったのだった。