テレワークが進み、働かない“ぶら下がり社員”や、注意に応じない“モンスター社員”の存在が目立つように。だが、SNSでの炎上リスクもあるので、会社側も強く出るのは難しい。そんな中、会社側がリスクを負わずに対策できる意外な方法があった。特集『社長が知るべき!労働法の新常識』(全5回)の#1では、『社長は労働法をこう使え!』(ダイヤモンド社)の著者であり、労働法務専門の向井蘭弁護士の話を基に、その方法について解説する。(ダイヤモンド編集部 塙 花梨)
コロナであぶり出された“ぶら下がり社員”
困惑する会社の叫び
2019年4月から「働き方改革関連法案」の一部が施行され、働き方改革が進んでいた。それが、新型コロナウイルスの感染拡大で一気に加速したことにより、会社と社員の労働問題が事件化するケースが増えている。
メンタルヘルスやパワハラ、残業代未払いなど、労務関連の相談は絶えずあったが、コロナをきっかけに特に増えたのが、「問題社員への対応」だ。
問題社員に関する相談は「元々中小企業からが多かったが、最近では大企業の依頼が増えた」と労働法務専門の向井蘭弁護士は言う。理由は、テレワークが普及し、社員の業務内容がデータとして可視化されるようになり、これまで紛れていた「仕事ができない」「やる気がない」という“ぶら下がり社員”があぶり出され、目立つようになったからだ。
最近になって急に可視化はされたが、こうした社員の多くは実際には5年越し10年越し、さらには20年越しで問題を抱えている場合が多い。その状態に慣れ切った彼ら、彼女らに対して俗に言う「肩たたき」で退職を促そうとすれば、合法的であっても本人たちは激しく抵抗するだろう。しかも、期間が長ければ長いほど労働法を熟知している者もおり、足元を見てくる可能性が高い。
ましてや、退職勧奨(会社側が退職を誘因する肩たたき)や懲戒処分を行うと、最近は簡単にSNSにアップされてしまう。そうすれば、違法ではないとしても、会社側が「炎上」し、企業イメージを落とすリスクが高い。
パフォーマンスが出ていない社員や、周囲を困らせる社員をどうにかしたい。そう思っても、合法的に退職を促すことすらできない――。まさに会社にとってみれば八方ふさがりだが、そんなときに唯一、炎上せずに解決する方法がある。
ちなみに、この方法は陰湿ないじめでも、パワハラでもない。「訴訟に持ち込まれたことは一度もなく」(向井氏)、合法的な上、最短1日で成果が出たこともある。さらにこの方法により自主的に退社を選ぶ社員は多いものの、真の目的は「問題社員を退職に追い込むこと」ではない。実際、問題があるかと思われていた社員が実はパフォーマンスが出せることが分かり、不当な処分防止につながったケースもある。本当に問題のある社員のみを、自然な自主退職へ促すのだ。
次ページからは、その方法の具体的な中身や効果の実例を紹介していく。