2021年秋季リーグが始まった。野球には、時には運も必要だが、リーグ序盤、不運も重なり小宮山・早稲田は連敗スタートとなる。監督が4年生に激怒するという一幕がありつつも、早大は連勝を続けて2位に浮上。優勝をかけた早慶戦に臨むが…。(作家 須藤靖貴)
監督が苦慮する選手起用
小宮山が重視するのは意外にも「運」
選手の起用法。これは野球チームの監督にとって最も大事で、そして最も悩ましいことだ。えりすぐりが集うプロや、部員数の多くない高校野球と比べても、大学野球の選手起用は難儀中の難儀とも思えてくる。
小宮山悟監督には明確な基準がある。
「神宮で力を出せるかどうか」
東京六大学リーグの聖地で伸び伸びとプレーできるか。部員の能力はグラウンドでの立ち居を見れば分かる。難しいのはそこから先だ。
力があって練習に意欲的。そういう部員は大勢いる。さらに踏み込んで小宮山が見るのは「運」。その部員に強い運があるかどうかである。
2021年の秋季リーグ戦に向かうときだった。
7月半ばの練習試合。ベンチ入りメンバーの選抜に小宮山は苦慮していた。ケガ人の多さに加え、コロナのワクチン接種で部員の活動期間が制限されていた。
前夜にようやくオーダーが決まった。その1番打者が、ゲーム前のストレッチングのときに「痛っ!」と声を上げた。ハチに刺されたのだ。「ションベンでもひっかけとけ」と言い放つ監督に、当の部員を含めた全員がきょとんとした。その迷信は今の学生たちには通じない。
代わりに抜擢したのは3年生の松木大芽。小柄で俊足、ピッチ走法できびきびと動き回る。プレーの理解度も深く、来年のキャプテン候補か、とも目されていた。
その松木が満塁ホームランを放った。
「急きょスタメン入りし、満塁で打席に立ち、ホームランを打てる。これが強運です」
ニコニコしながらベンチに戻った松木に、「ミツバチに感謝しろ!」と小宮山も笑顔で迎えた。