年々増加する国民医療費と
いびつな日本の病床制度

「紹介状なしの大病院受診時の定額負担」は、診療所や中小病院の紹介状(診療情報提供書)を持たずに大病院を受診した患者から、特別料金を徴収することを、病院に対して義務付けた制度だ。通常なら、患者の負担は定率の一部負担金だけで済むところに、特別料金を加算することで、大病院受診のハードルを上げようとするものだ。

 こうした制度導入の背景にあるのが、年々増加する国民医療費といびつな医療の提供体制の問題だ。

 2020年度の国民医療費は42.2兆円。新型コロナウイルス感染拡大に伴う受診控えなどの影響で、前年度に比べて1.4兆円減少したものの、2010年度の37.4兆円と比べると4.8兆円も増加している。そして高齢化に伴い、国民医療費は今後ますます、増加することが予想されている。

 また、コロナ禍で明らかになったように、日本の病床数は世界でも突出しているにもかかわらず、患者の受け入れがひっ迫する事態が起こった。大病院と地域の中小病院や診療所との連携も不十分で、効率的に医療を提供できる体制になっていない。

 国民医療費の適正化を図り、限りある医療資源を効率的に活用するためには、医療機関の役割分担を明確にして、病院や診療所が連携しながら、地域全体で患者の治療に当たる提供体制への転換が必要になる。

 これを実現するには、医療機関を利用する患者にも、「高度な手術や化学治療など、専門的な医療を受けるときは大病院」「慢性期の治療や日常的な健康管理は、身近な診療所や中小病院」というように、病状に合わせて医療機関を使い分けてもらう必要がある。そこで、2016年度の診療報酬改定で導入されたのが、「紹介状なしの大病院受診時の定額負担」だ。

 制度導入当初の2016年、定額負担の金額は、初診が5000円以上(歯科は3000円以上)、再診は2500円以上(同1500円以上)となっていた。このとき徴収義務化の対象となっていたのは、大学病院や国立病院機構など高度な医療を提供する特定機能病院と、ベッド数が500床以上の地域医療支援病院だった。

 だが、2018年度の診療報酬改定で、適用される地域医療支援病院が400床以上、2020年4月からは200床以上へと拡大された。

 そして、今回の改定では、地域の病院と診療所の連携を強化するために、対象範囲が拡大されるとともに、特別料金の価格も引き上げられることになった。また、紹介状なしで大病院を受診しても、特別料金を徴収しなくてよい例外規定も見直されて、厳格な運用が求められるようになっている。

 今後、紹介状なしで大病院を受診すると、患者の負担はどのように変わるのか。2022年度の見直し内容を見ていこう。