発見することが難しい「グレー領域」の落とし穴
10分間の休憩を挟んで、研修は後半へ。3つ目のパートは「マネジメントの落とし穴」だ。アンコンシャスバイアスやステレオタイプについてだいぶ理解できてはきたが、日々のマネジメントにどう生かしたらよいのだろうか。
中原教授の動画によると、「マネジメントの落とし穴は『グレー領域』に潜む」とのこと。完全にステレオタイプのない理想的な状態を「ホワイトマネジメント」とするならば、対極にあるのが、明らかな悪意を持って相手を否定・攻撃する「ブラックマネジメント」。両極の2つはわかりやすいが、実はこの間にある「グレー領域」に、落とし穴があるという。ホワイトに近い領域の落とし穴は、「よかれと思っての“裏目マネジメント”」。事例では、幼い子どものいる女性社員に対し、負担を増やさないように上司が気を遣って仕事を減らすケースが登場する。だが、その女性社員自身が本当は仕事をしたいと思っていたとしたら、まさに、よかれと思ったことが裏目に出てしまったことになる。もう1つの落とし穴は、ブラックに近い領域の「マイクロアグレッション・マネジメント」。マイクロアグレッションとは、悪意や意図のない何気ない行動を指し、ほんのささいな言葉が相手を深く傷つけてしまうこともあるというものだ。事例では、役職定年後も仕事を頑張るという年上の部下に対し、「いや、若手に道を譲ってくださいよ」と年下の上司が声をかけるシーンなどが紹介された。これらも、2つ目のパートに出てきた「ステレオ地雷」同様、日常的にありがちな光景だ。かつ、悪気がないだけにやっかいとも言えるだろう。
動画の視聴後は、相手を傷つけてしまった、もしくは傷つけてしまったかもしれない経験、自分自身が「傷ついた」と感じた経験談を各人がワークシートに書き込み、グループワークで発表し合うことに。グループ内の男性の一人からは、「新婚の女性を仕事の後に飲みに誘わなかった。気を遣ったつもりだったが、本当は行きたかったかもしれない」といった「傷つけてしまったかもしれない」経験が語られた。逆に私は、「男性がよかれと思ってやってくれたが、本当は自分でこなしたかった」と、「傷ついた」経験を披露。性別や立場が違うこともあり、経験や意見も多様だったが、同質性の高いグループの場合は、違った結果になるかもしれない。研修参加者の同質性が高ければ、グループワークの意見が同じようなものに偏りやすく、異質的な人へのバイアスが気づきにくくなる可能性もあるだろう。同質性の高いグループとそうでないグループのどちらが良いのかは一概に言えないが、いずれにしても、グルーピングは重要だと感じた。また、自分の経験を話す際には、センシティブな内容も含まれがちだ。オフィスの一角で受講している人も何人か見受けられたが、より話しやすくするためには、受講環境も考慮する必要があるだろう。
「グレー領域」の落とし穴は、発見することがなかなか難しい。受講者とやりとりをする板谷講師のこんな言葉が印象に残った。
「事例動画の中には、『こんなことを考えたり話したりすることは普通だよね』と思うこともあるかもしれませんが、これまで気にする人に出会ったことがなくても、目の前の人は違うかもしれません。アンコンシャスバイアスによって、つらい思いをする人を減らしていくことが重要です」