アンコンシャスバイアスと『うまくつきあう方法』
こうして、研修は終了。3時間にわたったが、実際はあっという間に思えた。言葉だけでとらえていたアンコンシャスバイアスが、一気に身近なものになったと実感する。動画やグループワークを通してさまざまな気づきがあったが、進行役であるファシリテーターのディレクションもポイントだと感じた。板谷講師は、どのようなことを心がけてファシリテートをしたのか、伺ってみた。
「まず、アンコンシャスバイアスは誰にもあるということを知っていただくことが大切です。ですから、『これができてないから、こういう発言をしてしまうからダメなんです』とアンコンシャスバイアスを悪者にして、知識とスキルだけを伝達する時間にしないようにすることを心がけました。これまでに管理職の皆さんが抱えていた疑問や悩み――それらの解決の糸口になるアンコンシャスバイアスの存在を知ること、その上で自分たちなりの対策を考えていただきたい、そんな思いでファシリテートをしました」
板谷講師の言葉にもあるように、「〜してはいけない」という事例だけを知っても効果はない。自覚して対策をすることがマネジメントにもプラスに働くのだ。
その入り口となるのが、「自分とは(価値観の)違う人がいる」という「想像力」を働かせて物事をとらえることではないだろうか。そう考えると、アンコンシャスバイアスは、企業におけるダイバーシティ&インクルージョンの推進とも関係性が深い。板谷講師も次のように語る。
「意思決定者がアンコンシャスバイアスによって、自分なりの解釈で受け止めてしまったり、聞く耳を持たないなんてことになったら、もったいない!場合によっては、致命的ですよね。『あ、これって、自分のアンコンシャスバイアスではないか?』と考えていただくことがD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)につながると思います」
「差別や偏見をなくす」という大きなスローガンを掲げても、自分のこととして実感できなければ、ダイバーシティ&インクルージョンはなかなか進まない。そんななかで、自らのアンコンシャスバイアスに気づき、失敗を繰り返してしまったとしても、何度でもやり直して、うまくつきあう方法を探っていく――そんな小さな一歩から、一人一人が変わり、誰もが活躍して成果を出せる職場環境も生まれていくのではないだろうか。
今回のアンコンシャスバイアス研修の監修者である中原淳教授が、研修に参加した私とこれから研修を受けるビジネスパーソンにメッセージを送ってくれた。
「アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)は、多くの場合、誰もが持っているものであり、ゼロにはできないものです。しかし、ひとに対して影響力を行使しなくてはならない管理職やリーダー層の場合、それと『うまくつきあう方法』と『それがついつい悪さをしてしまう場面』を意識しなくてはなりません。ダイヤモンドさんと3年の共同研究の結果、スマホで誰もが簡単に受験できるアンコンシャスバイアステストと、研修を開発しました。多くの職場や組織で、これらのツールを用い、アンコンシャスバイアスと『うまくつきあう方法』を発見していただけると望外の喜びです」