人間が労働から解放されると、社会には詩人やストリート・ミュージシャン、わけのわからない発明家で溢れてしまうかもしれない。しかし、自分たちの仕事を無駄だと思いながら一日中書類を埋めるよりは、そうしたばかげたことをする方が、はるかに幸せなことではないだろうか。

一読のすすめ

 とある南の島の先住民のお話。先住民は昼間から寝そべっている。そこに旅行者がやってきて「ちゃんと働きたまえ」と言う。島の住民は「なんのために」と聞く。「働くとこうしてビーチでのんびりできるだろう」と返す。「それはもう私達がやってることじゃないか」と島の住民が返す。

 仕事に疲弊したとき、我々が望むのはこうしたささいなことだ、と共感しつつ「では、どうして我々はそんなにも嫌な仕事を続けているのか」という謎に遭遇する。本書にはこうした身に覚えがあるエピソードが散りばめられている。

 BSJに苦しむ登場人物に同情し労る気持ちをもつことで、自分のことを癒やし大事にする意識が育まれる。そんな魅力が本書にはある。ささやかな幸せを求める人たちに手にとって欲しい。

評点(5点満点)

総合3.5点(革新性4.0点、明瞭性3.5点、応用性3.0点)

著者情報

酒井隆史(さかい たかし)

 1965年生まれ。大阪府立大学教授。専門は社会思想、都市史。著書に、『通天閣 新・日本資本主義発達史』(青土社)、『暴力の哲学』『完全版 自由論 現在性の系譜学』(ともに河出文庫)など。訳書に、デヴィッド・グレーバー『ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論』(共訳、岩波書店)、『官僚制のユートピア テクノロジー、構造的愚かさ、リベラリズムの鉄則』(以文社)、『負債論 貨幣と暴力の5000年』(共訳、以文社)、ピエール・クラストル『国家をもたぬよう社会は努めてきた クラストルは語る』(洛北出版)など。

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