脅し屋は、他人を操ろうとしたり脅しをかける。企業弁護士、広報専門家などだ。「商品を売るためには、なによりもまず、人をあざむき、その商品を必要としていると錯覚させなければならない」。

 次に、尻拭い。組織の中の欠陥に対処するためだけの仕事で、一人の人間の欠陥を部下や部署全体が尻ぬぐいするといったケースだ。

 そして「やっているふり」をするのが書類穴埋め人だ。「ある組織が実際にはやっていないことをやっていると主張できるようにすることが、主要ないし唯一の存在理由であるような」この役割は、現代ではパワポや図表などを報告書にまとめるだけの従業員として囲われている。

 5つ目のタスクマスターには二つの類型がある。一つは「不要な仕事をつくりだす上司」で、もう一つは「他者のなすべき仕事をでっちあげる」ことである。

 グレーバーのラフな計算によると、イギリスにおける仕事の37%がBSJで、残りの63%がそのサポートに回っており、実質的な労働時間は週15時間程度であるという。

◇「不要な仕事」

「ブルシット」には、「うそ、ほら、でたらめ」といったあざむきのニュアンスが強くある。

 哲学者のフランクファートは「ウソ」と「ブルシット」のちがいについて議論を行なった。ウソをつくという行為は、真実や事実をごまかしていることを自覚した上で行われるが、「ブルシッティング」では、真実や事実への配慮はなく、「その場をうまく丸め込」んだり、「論破」したり、知的に見せることが重要だ。フランクファートは「だれもがじぶんのよく知らないことまで意見をもたねばならないという強迫」が、ブルシット蔓延のひとつの理由であると理由づけた。

 経済学者のケインズは1928年に20世紀末までに欧米ではテクノロジーの進歩により週一五時間労働が達成されると予測していた。

 しかしその予言は大外れしている。「わたしたちはすでに一日3時間労働や週15時間労働ですんでいるはず」「なのに、そうなっていないのはなぜか」という問いに対するグレーバーの答えとして「ブルシット・ジョブ」がある。

◆ブルシット・ジョブの苦悩と屈辱
◇「無目的」という苦悩

 BSJを考える際の重要なポイントは、一見稼ぎの良い「おいしい」とされる仕事であっても、「完全に目的がない[無意味な]状態で生きることが」「深刻でつらい」という点だ。

 グレーバーの分析によると、「人間が自己を獲得するその根源には、「原因となるよろこび」が存在する」。そして、「原因となれないこと」、つまり「世界に影響を与えることができないことは、自己の危機、自己の存続の危機なの」だ。