スケールの大きなビジョンに皆が魅了され、行動してしまう

 別の例では、作曲家のジョン・ケージが作曲したオルガン曲に、「オルガン2/ASLSP」というものがあります。「ASLSP」は、「As Slow as Possible」、つまり「可能な限り遅く」を意味しています。

 ドイツのハルバーシュタットにある廃教会では二〇〇一年から、この曲の演奏が始まりました。その演奏に要する時間は、六三九年という、途方もないものです。演奏が終わるのは、西暦二六四〇年が予定されています。

 二〇二〇年には、「七年ぶりに和音が変わった」とニュースになりました。

 サグラダ・ファミリアと「オルガン2/ASLSP」。どちらも途方もないスケールの作品ですが、どうして多くの人がその実現に協力しようと労をとるのでしょうか。

 その理由はまさに、その妄想のスケールの大きさ、途方もなさにあるのではないでしょうか。スケールの大きなビジョンに皆が魅了され、つい行動してしまうのだと思います。

 半端な妄想であれば、そうはいかないでしょう。その意味で「大風呂敷」は、とても大事なのです。

細尾真孝(Masataka Hosoo)
株式会社細尾 代表取締役社長
MITメディアラボ ディレクターズフェロー、一般社団法人GO ON 代表理事
株式会社ポーラ・オルビス ホールディングス 外部技術顧問
1978年生まれ。1688年から続く西陣織の老舗、細尾12代目。大学卒業後、音楽活動を経て、大手ジュエリーメーカーに入社。退社後、フィレンツェに留学。2008年に細尾入社。西陣織の技術を活用した革新的なテキスタイルを海外に向けて展開。ディオール、シャネル、エルメス、カルティエの店舗やザ・リッツ・カールトンなどの5つ星ホテルに供給するなど、唯一無二のアートテキスタイルとして、世界のトップメゾンから高い支持を受けている。また、デヴィッド・リンチやテレジータ・フェルナンデスらアーティストとのコラボレーションも積極的に行う2012年より京都の伝統工芸を担う同世代の後継者によるプロジェクト「GO ON」を結成。国内外で伝統工芸を広める活動を行う。2019年ハーバード・ビジネス・パブリッシング「Innovating Tradition at Hosoo」のケーススタディーとして掲載。2020年「The New York Times」にて特集。テレビ東京系「ワールドビジネスサテライト」「ガイアの夜明け」でも紹介。日経ビジネス「2014年日本の主役100人」、WWD「ネクストリーダー 2019」選出。Milano Design Award2017 ベストストーリーテリング賞(イタリア)、iF Design Award 2021(ドイツ)、Red Dot Design Award 2021(ドイツ)受賞。9月15日に初の著書『日本の美意識で世界初に挑む』を上梓。