日系外国人の世代交代が進んでいくなかで…
1990年に「改正出入国管理及び難民認定法(入管法)」が施行されたことで、日系外国人やその家族などの就労が広く認められるようになり、リーマンショックや東日本大震災による人口動態の変化はあるものの、現在、茨城県は全国で10番目に外国人の多い都道府県になっている*7 。たとえば、1990年に30歳で来日したブラジル人は、2022年には62歳となり、孫と一緒に日本に定住しているかもしれない。日本で長く暮らし、働く日系外国人は、3代、4代と……年を追って世代交代していく。
*7 茨城県の在留外国人は、7万2279人(2021年6月末現在) 出入国在留管理庁 在留外国人統計(旧登録外国人統計)より。
横田 最近、外国人の親御さんと接していて気づくのは、昔は「わたしの通った学校は全部がブラジルでした。だから、日本の学校のことは全然分からないです」という方が多かったのですが、「わたしは、子どもの頃に日本に来て、日本の小・中・高を経験しています。日本語もしゃべれます」という方が増えてきていること。たとえば、「プレスクールに来ませんか?」というチラシを小学校の入学説明会で配ったら、10年くらい前は、「何を用意すればいいのか分からない」という反応だったのが、いまは変わってきています。自分自身の体験やFacebookなどを通じた情報網で把握できるようです。日本の教育に慣れている感じですが、「自分の日本語のスキルを上げよう」「資格を取ってみよう」といったモチベーションはあまりありません。家を買って、車を持って、子どもを学校に通わせて……といった生活は送れてはいるものの、子どもの宿題を家で見てあげて、学力を向上させていく姿勢は少ないですね。日本語を話せるようになった子どもたちも、結局、大学に行くほどの学力は持ち得ず、就職の幅を広げられないでいます。
「定住者」の在留資格*8 などで常総市に住む外国人だが、当然、日本での生活期間も、日本語の能力も、一人ひとりで異なっている。多文化保育を実践するはじめのいっぽ保育園にも、さまざまなバックボーンを持つ保護者(父親・母親など)とその子どもたちがやってくる。
*8 在留資格「定住者」は、身分・地位に基づく在留資格(活動制限なし)で、日系3世、外国人配偶者の連れ子などと定義されている(法務省 在留資格一覧より)。
横田 はじめのいっぽ保育園の利用者には、外国人のお母さんが日本語で生活しているため、そのお子さんも日本語しかしゃべれないというケースもあります。実は、そういう子もいるほうが多文化保育の意味があると、私は思っています。たとえば、全員がブラジル人の子で、日本語を話せないとなると、子ども同士の会話がすべてポルトガル語になり、日本語の習得に遅れが出るでしょう。はじめのいっぽ保育園は「多文化保育」なので、日本人を両親に持つ日本人の子どもを含め、さまざまな母語を持つ子どもたちが多言語に触れる場所にしたいです。
新型コロナウイルス感染症の拡大による、全国各所の保育施設の休園は、テレワークのできない保護者(父親・母親など)の就労を左右していく。公的なデータでは、全国でおよそ3万8000ある保育所等*9 のうち、最大時で777の施設が全面休園となった*10 。また、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の発令が、時期と地域で繰り返される状況下で、日本語の不自由な外国人が正しい情報をリアルタイムで取得していくことは困難にちがいない。
*9 保育所等とは、「認可保育所、保育所型認定こども園、地域型保育事業所、へき地保育所」を指す。
*10 2022年2月3日の数字(2020年3月5日~3月10日期間/厚生労働省調べ)。
横田 2020年の4月、はじめのいっぽ保育園の小規模保育施設B型(6カ月~2歳児対象)がスタートしたわずか3日後に、保護者の方々に「施設の利用自粛」をお願いしなければならないことになりました。「利用をできるだけ控えてください」と、複数の言語で記した文書を渡しましたが、仕事を休みにくい親御さんが多く、「自粛します」という方はほとんどいませんでした。
はじめのいっぽ保育園を利用している方に限らず、外国人の皆さんは、常に分かりやすく正しい情報を欲しています。ですから、「熱が出た場合は、この機関で検査を受けられます」「こういうときは、保育園に来てはいけません」といった具体的なお知らせを、日本語・英語・ポルトガル語の文書で配布しました。それを郵便局や病院にも置いてもらったり、ネットでも公開したり……外国人の親御さんたちの不安が減るように、さまざまな告知を現在も続けています。