「人のやる気を奪う上司」が無意識にやっているNG行動

セールストークやプレゼン、交渉などがうまくいかない、自分の想いが伝わらない……という人にぜひ読んでもらいたいのが、TBSの井上貴博アナウンサーが上梓した『伝わるチカラ』だ。報道番組『Nスタ』平日版の総合司会として活躍、いまや“TBSの夕方の顔”ともいえる井上アナ。この春には「第30回橋田賞」を受賞、自身初の冠ラジオ番組『井上貴博 土曜日の「あ」』がスタートするなど、いま最も勢いに乗っているアナウンサーだ。
アナウンサーとしてのキャリア15年で培われた、「伝わらない」を「伝わる」にかえるための技術を詰め込んだ
『伝わるチカラ』の発売を記念し、特別インタビューを実施。「人のやる気を奪う上司」が無意識にやっているNG行動について聞いた。(取材・構成/川代紗生、撮影/疋田千里)

人を成長させるフィードバック「3つのルール」

「人のやる気を奪う上司」が無意識にやっているNG行動
井上貴博(いのうえ・たかひろ)
TBSアナウンサー
1984年東京生まれ。慶應義塾幼稚舎、慶應義塾高校を経て、慶應義塾大学経済学部に進学。2007年TBSテレビに入社。以来、情報・報道番組を中心に担当。2010年1月より『みのもんたの朝ズバッ!』でニュース・取材キャスターを務め、みのもんた不在時には総合司会を代行。2013年11月、『朝ズバッ!』リニューアルおよび、初代総合司会を務めたみのもんたが降板したことにともない、2代目総合司会に就任。2017年4月から、『Nスタ』平日版のメインキャスターを担当、2022年4月には第30回橋田賞受賞。同年同月から自身初の冠ラジオ番組『井上貴博 土曜日の「あ」』がスタート。同年5月、初の著書『伝わるチカラ』刊行。

──部下の教育方法に悩んでいる、という人も多いと思います。強く言うと傷ついてしまうし、かといって、褒めるばかりだと緊張感がなくなり、気が緩んでしまう。井上さんも、これまで後輩を育ててきた経験があると思います。職場でのコミュニケーションについて、何か気をつけるべきポイントがあれば教えてください。

井上貴博(以下、井上):まず大前提として、人を育てるということは、ものすごく難しいですよね。後輩によって何を求めているかも、どこを目指しているかも違うから、どんな言い方をすればいいかも人によってまったく違う。

ただ、基本的に「褒められるだけで、人は成長しない」というのが私の持論です。これは私が学生時代、ずっと野球一筋で育ってきたこともあるかもしれませんが、アナウンサーになってからも、番組スタッフの率直な意見や指摘があったからこそ、次はこうしてみよう、今回うまくいかなかったのならこう改善しようと、「実践→反省→試行錯誤」の習慣が身につきました。

馴れ合いからは何も生まれないので、「どう褒めるか」よりもむしろ「より改善できるところ」をどう伝えるか、に心を砕いていますね。

──とはいえ、「ここ、直したほうがいいよ」という指摘は、しづらいですよね。後輩を萎縮させてしまう可能性もありますし。

井上:年長者は、ただでさえ偉そうに見えてしまうことがありますからね。自分では軽いボールを投げているつもりでも、若いスタッフが固まってしまう、ということもあります。

だからこそ、私は年下のスタッフとコミュニケーションを取る際に、3つのことに気をつけています。

1つは、必ずポジティブな感想から伝えること。

最初に「ここは良かったよ」と肯定的な言葉を投げかけたあとで、本題に入るようにしています。

2つめは、自分の意見であると強調すること。

「間違っているかもしれないけど、私はこう思ったよ。私がこう思っただけで、これが正解とは限らないよ」

このように個人の主観であることを強調すると、相手は気分的に救われます。

3つめは、相手によって厳しさのレベルを変えること。

私は、後輩からダメ出しを求められたとき、最初に「厳しめコースと、中間コースと、甘々コースがあるけど、どれがいい?」と尋ねるようにしています。

──なるほど! その問いかけはすごくありがたいですね

井上:以前の私は、全員に100%の力で打ち返していました。中途半端は失礼であり、全力で打ち返すのが礼儀だと考えていたからです。

ところが、実際に全力でアドバイスをしたところ、後輩からぜんぜん感謝されないという事態に直面しました。ある後輩には、「ごめんなさい。そこまでのアドバイスがほしかったわけではないんです」と、逆にダメ出しをされてしまったこともあったんです。

そこで、ハッと気がついたんです。人によって仕事も目指すゴールも、取り組み方も、そのときのメンタルのコンディションも違う。にもかかわらず、一様に全力でアドバイスをしても、ただの自己満足になってしまうこともあるのだ、と。

それ以来、アドバイスをする前に、相手のレベル感を確認するようになりました。まあ、だいだいの後輩は真面目なので、「厳しめコースでお願いします」という人がほとんどなんですけどね。