部下のやる気を引き出すコミュニケーションの本質

──「自分で厳しいアドバイスを求めた」という納得感があれば、「先輩の指導が厳しすぎて辛い」という不満も生まれにくそうですね。

井上:こちらではよかれと思って言ったことが、相手にとっては負担、ということがよくあります。「言う側」も「受け取る側」も、お互いにイメージを共有しておかないと、ギャップが生まれ、人間関係がうまくいかなくなってしまう。

私自身もそうしてきたのですが、やっぱり手取り足取り受け身で教えてもらうよりも、自分から率先して技を盗みにいったほうが、のちのちチカラになります。TBSも、基本的なアナウンス研修はあるのですが、あとは比較的自分で模索し、研究するアナウンサーが多いです。だからこそ、私もみのもんたさん、久米宏さん、逸見政孝さん、安住紳一郎さんなど、諸先輩方の真似を愚直に続けてきました。アナウンサーに限らず、お笑い芸人さんや、バスガイドさんなど、「伝わる」ための教材は世の中に溢れていますから。

──井上さん自身も、これまでのキャリアで、さまざまな人の指導を受けてこられたと思います。とくに印象深かったアドバイスなどはありますか?

井上:先輩アナウンサーはもちろん、プロデューサーや番組スタッフなど、私の可能性を信じてくれた人たちと一緒に働けた時間のことは、いまも心に残っています。どんな状況でも、「おまえは必ずいける」と信じ続けてくれた。

これは私だけかもしれませんが、もしかすると、「あなたの可能性を信じているよ」と示すことが大事なのかもしれませんね。可能性を信じてもらえていると実感できるからこそ、頑張れるし、成長しようと思えるんじゃないかな。

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──ああ、言われてみれば……。言い方が厳しいかどうか、伝え方がうまいかどうかよりも、上司が自分の可能性を信じてくれているか、ということのほうが、ずっと大事かもしれません。

井上:誰しも頼られたいという感情はあるはずなので、「自分が何を言っても組織は変わらない」とか「頼ってもらえない」と思うと、頑張ろうとはなかなか思えないですよね。

みのさんに言われたことで、とくに印象に残っていることがあって。数年前、当時のメンバーで集まって飲み会をしたとき、「井上君、最近いい感じじゃないの」と私の仕事ぶりを褒めてくれたんです。そのあとに、こうも言われたんです。

「でも、周りから『いいね』って言われているうちはまだまだだよ。『ちょっと手に負えないな』『やりすぎだ』『井上やばい』って言われるようになってからが、本当のスタート。そこでようやく井上君の色が出るってことなんだ。孤独だと思うけど、戦えよ」と。

──まさに、可能性を信じてくれているんだなあ、と感じるような、励ましの言葉ですね。

井上:「これでいい、間違ってない」と背中を押してもらえたような気がして、感謝の気持ちでいっぱいになりました。以来、心がくじけそうになったときは、いつもみのさんの言葉を思い出すようにしています。

素晴らしい先輩方とともに働けた時間が、いまも私の血肉になっています。

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