想定していた業者が外され
工事費は相場の倍額に?

 私と有志の修繕委員たちがそのような調査を進めている一方で、大規模修繕委員会の会合も回を重ね、設計コンサルタント会社と工事会社の業者選定が着々と進んでいた。委員会においては、A氏もB氏も中立を主張していたが、言葉巧みに立ち回り、私の会社も含め、談合やリベートを許さないという姿勢を見せている設計コンサルタント会社は、なぜかかなり早い段階で選定の候補から除外されていた。

 そのあまりの手際の良さに、委員たちはきつねにつままれたような気分でいたが、我に返って異議を唱えたときには、既に設計コンサルタント会社の候補が3社に絞られる段階まで進んでしまっていたのである。

 そこで、候補となった3社の設計コンサルタント会社に、最近請け負った大規模修繕工事の戸当たり単価について聞いてみると、「戸当たりで150万~180万円」という回答が返ってきた。

 周囲のマンションにおける大規模修繕工事の実施状況や、国土交通省が公表しているマンション大規模修繕工事に関する実態調査を見ても、大規模修繕工事の戸当たり工事金額における中心価格帯は75万~100万円だ(※共通仮設費、現場管理費、一般管理費、消費税相当額などの間接工事費は含まない)。3社が出してきた「150万~180万円」という戸当たり単価はほぼ倍で、異常ともいえる金額である。そのことを説明すると、委員たちは大変な驚きと動揺を見せた。

 明らかに高い工事費が提案されようとしているにもかかわらず、A氏とB氏は淡々と設計コンサルタント会社の選定を進めていく。そんな彼らの態度に、当然ながら他の委員たちは不満と不安を募らせていった。私のほうでも、特に大規模修繕委員長であるA氏の行動に不信感を覚えたため、「念のため、A氏が所有している部屋の登記簿謄本を取ってみましょう」と提案してみることにした。

 不動産の登記簿謄本は、その土地・建物の履歴書のようなもので、過去の持ち主から現在の所有者の情報、権利関係などが記載されている。不動産登記法により誰でも閲覧することができると定められており、法務局で交付請求できる。ちなみに、最近ではオンラインでの請求もでき、交付手数料は窓口で申請するよりも安くなるようだ。