マンションの大規模修繕工事は、小規模マンションでも数千万円単位、大規模マンションになると億単位の発注となるため、そこで“甘い汁”を吸わせてもらおうと悪徳コンサルタント会社や工事会社が群がってくる。いろいろなところで談合・リベートの問題が大きく取り上げられているおかげで、さすがにあからさまな談合・リベートの事案はなりを潜めてきたが、最近、久しぶりに“見事”な談合・リベートを目の当たりにしたので、今回はそのケースを紹介したい。(株式会社シーアイピー代表取締役・一級建築士 須藤桂一)
新しい大規模修繕委員長の就任から
事件は始まった
そのマンションは、築15年になろうとしている200戸ほどの大規模マンションで、理事会とは別に大規模修繕委員会が組織されている。理事会の理事は任期2年で、半数改選の輪番制だが、大規模修繕委員会の委員はほぼ固定のメンバーで、そこに理事会で大規模修繕工事担当になった理事が参加して運営していく、というやり方を取っていた(※)。
1回目の大規模修繕工事に向けて、具体的に検討する時期になったある日、区分所有者のA氏が大規模修繕委員会への参加を申し出てきた。A氏はどことなくインテリジェンスを感じさせる人物で、鮮やかな弁舌に加えて人当たりも良く、委員会にすんなりと溶け込んでいった。そして、以前住んでいたマンションで大規模修繕委員長の経験があるということで委員たちの信頼を勝ち取り、大規模修繕委員長に就任しキーマンとなった。
委員会でA氏は積極的に発言し、以前のマンションでの大規模修繕工事の経験を例に挙げながら、計画の立て方や工事の進め方について、さまざまな意見やアイデアを披露した。大規模修繕工事の経験がない修繕委員たちは、A氏の積極性と知識の豊富さに感心しながら、会合を重ねていった。
ある日の委員会で、A氏から「工事をうまく進めるためには、良い設計コンサルタント会社を選ぶ必要がある」という話が出た。すっかりA氏に信頼を寄せていた委員たちからは特に異論が出ることもなく、設計コンサルタント会社を公募で選ぶというところまで話は進んだ。
するとA氏は、「大規模修繕工事の経験が乏しい会社や質の悪い会社が入れないように、公募の条件は厳しい内容にするべきだ」と言って、会社の資本金や売上高、大規模修繕工事のコンサルタント業務の実績件数、在籍する一級建築士の条件など、次々に厳しい条件を並べていく。
あまりにもハードルの高い条件ばかりのため、公募に応じてくれる会社がいなくなるのではないかと委員たちからは不安の声も持ち上がったが、A氏は厳しい条件を付けるべきだとまったく譲らない。そして、A氏からこれまでの穏やかで知的な様子は消え去り、どう喝するような強い調子で委員一人一人を説き伏せようとする始末だ。
結局、その日の委員会では公募条件の設定には至らず、会合は終了した。次の委員会でも、A氏は厳しい公募条件を押し通そうとし、話は一向に進まない。そして、A氏の言動には次第に焦りのようなものも感じられてきた。そんなA氏を不審に思い始めた委員たちは、A氏に気づかれぬようにこっそりと話し合った上で、私のところへ相談を持ちかけてきたのである。
(※)事例の特定を避けるため、事実関係については一部改変している。
居住実態なしで連絡先も不明!?
大規模修繕委員長を取り巻く謎
まずは状況を確認しようということで、現地におもむいて関係者にヒアリングをしてみると、A氏の立場が明らかになった。実は、A氏はマンションの区分所有者ではあるものの、現在は別の場所に住んでおり、大規模修繕委員会の会合が開催されるたびに、わざわざ電車でやってくるという不思議な行動を取っていたのだ。