三河島事故による
2つの教訓

 三河島事故の教訓は多数あるが、中でも特筆すべきものは2つある。

 第一に、事故の原因となった貨物列車の信号見落としへの対策として、国鉄全線にATS(自動列車停止装置)が整備されることになった。国鉄は1941年に山陽線内で発生した衝突事故の教訓からATSの必要性を認識していたが、戦災復興と輸送需要の急激な増加への対応に追われ、安全対策に十分な投資が行われなかったのである。

 第二に、事故発生時に二次被害を防ぐため速やかに周辺の列車を停止させる措置(列車防護)の徹底だ。三河島事故では第二事故から第三事故まで6分の時間があったにもかかわらず、事故を防ぐことができなかった。この教訓から開発されたのが、周辺の列車に無線で危険を知らせる「列車防護無線」だ。

 日常的に鉄道を利用している人なら突然、列車が急停止し、車掌が「危険を知らせる信号を受信したため急停車しました」と説明する場面に遭遇したことがあるはずだ。これこそが防護無線である。

 無線は路線に関係なく、周辺にいる列車に送信されるため、なぜ他路線の事故なのに自分の乗っている電車まで止められるのかと思う人もいるだろうが、これも60年前の事故の教訓のひとつなのだ。

 またこのようなケースでは停車後、車掌が何度も「危険ですから絶対に線路に降りないでください」とアナウンスする。

 これは駅間で停車した列車から、勝手に非常用ドアコックを操作した旅客が降りてしまったことで周辺の路線が全面的にストップするという2000年代以降に頻発したトラブル対策で、三河島事故の直接の影響ではない。しかし、仮に列車から降りて避難する必要がある場合でも、周辺の列車の停止を確認するまで車両から降りないようにするという意味ではつながっている話である。