世界の穀物は「フードメジャー」と呼ばれる一部の企業が牛耳っている。平和な時代はそれで良いのだが、有事になると穀物支配国の動向は無視できないものになり、国際サプライチェーンは分断されてしまう。そうなると日本の食料は深刻な危機に陥るのだ。本稿は、高橋五郎『食糧危機の未来年表 そして日本人が飢える日』(朝日新聞出版)の一部を抜粋・編集したものです。
世界の食料事情に影響を及ぼす
「フードメジャー」という存在
世界中の生産地から小麦・コメ・トウモロコシ・大豆・油脂植物を仕入れ、加工・保管・販売、農産物の種子の開発・販売までを独占的に扱い、市場に多大な影響を及ぼし続ける「フードメジャー」という企業群が存在する。以前は「穀物メジャー」とも呼ばれていた。そもそも数カ国の生産大国によって支配されている穀物がその誕生の背景にあったのだ。
世界的に影響力のあるフードメジャーには、カーギル(アメリカ)・ADM(アーチャー・ダニエルズ・ミッドランド、アメリカ)・CHS(全米農協二次連合会)・ルイ・ドレフュス(オランダ)・ガビロン(オランダ)・トプファー・インターナショナル(ドイツ)・ブンゲ(アメリカ)・ネスレ(スイス)・タイソンフーズ(アメリカ)などがある。
フードメジャーの本社はアメリカに集中する傾向にあり、これらの企業上位10社が所有する穀物倉庫キャパシティーは6800万トンとされる。これに中小の100あまりの同業者分を加えると1億トンを超える可能性がある。
2022年末のアメリカの穀物在庫は2・9億トン(米国農務省)だったが、その30%をフードメジャーが管理しており、影響力は絶大だ。
しかしフードメジャーの活動を見ると、仕入れと販売を取り扱うといった単なる商社ではないことがわかる。穀物を原料とする加工食品製造・種子開発・遺伝子組換え作物やゲノム編集食料開発・化学肥料や化学農薬の開発・販売など幅広いビジネスエリアをもっているのだ。いわば食料トレーダー・生命科学企業・食品加工メーカーなど、いくつもの顔を併せ持っている。
同時に、カントリーエレベーター(穀物保管・脱穀倉庫)、輸出港湾施設や運搬専門大型船など、大規模ロジスティクス部門を世界各国に併設、多国籍化して、食料物流、サプライチェーンをわしづかみにしているのもフードメジャーである。