ウユニの前にそれどころではない事件が発生
大学二年生だった私と彼にはお金がなかったので、ツアーに申し込む余裕はなく、自分たちで情報を集め、口コミを頼りにホテルや飛行機を取り、どのようなルートで行くかを一つ一つ決めて行った。私たちは十日間でペルーとボリビアを回る旅程にし、前半でマチュピチュ、後半でウユニに行くことにした。
さて彼氏と二人で長期旅行をしたことのある人ならある程度予想がつくだろうが、私たちは喧嘩をした。原因は簡単。頼りにならない私に彼氏の堪忍袋の緒が切れたのだ。私は池袋駅から池袋のユザワヤに行くにも一時間さまよったことがあるくらいの超ド級の方向音痴なので、地図を読むことができず、どこに行くにも彼氏に任せっきりにしていた。そのことに対して彼氏が不機嫌になり、旅行中の会話がほぼなくなってしまったのだ。
でも一応自分の擁護のために言い訳させていただくが、私は別に何もかも任せっきりにしていたわけではない。現地の人との会話は私が担当していた。英語が通じなかったのでスペイン語の旅行会話集を買い、なんとかやりとりをしていた。
しかも、彼は頻繁に「今まで弟キャラであんまり甘えられたことがないから、サキに頼りにされるのがすごく嬉しい」と言っていたのである。それなら当然旅行でも頼りにしてもいいと思うじゃないですか、ねえ?
だからね、私はコミュニケーション班と地図班で分かれていたつもりだったんですよ。なんなら彼は「地図読めな~い」と言われて喜んでいるもんだとすっかり思い込んでいたのですよ。でも実際は、彼女に甘えられて喜ぶ期間というのはとっくに終わっていて、内心で「いい加減仕事しろよなこのズボラ女」と愚痴っていたわけですね。ああ男女のすれ違いって怖い。切ない。ちょっと、男は頼られるのが好きって書いてあったあのモテハウツー本、全然当てになんないじゃん! クソ! と自分の過ちを責任転嫁して、私はなんとか怒りを鎮めていた。
というわけでウユニに行く寸前に大げんかした私たちは、気まずいまま、ちゃんと話したりもせず、一言も話さずセックスもせず就寝してしまったわけである。わかってくれる女性は少なからずいると思うけど、旅行に行って解放的な気分になってるはずの彼に性欲を抱かせられなかったときの切なさといったらない。あの夜は本当に辛すぎて眠れなかったわ。ヤツはでかいイビキかいて寝てたけど。
で、不穏な雰囲気のままウユニに着いた私たちは、渋々普通に会話はしていた。まあここまで来てようやく念願のウユニにたどり着いたのに口論なんてしていられるかという感じだったのだ。しかも泊まったのは安宿じゃなく塩のホテルというやつで、壁とか床とかテーブルとかいろんなものが本物の塩でできていた。ウユニ塩湖の塩を使っていて、リーズナブルな宿泊料のわりに(当時は円高だったのもある)豪華で部屋も綺麗で食事もおいしかった。