相手も自分も心地いいコミュニケーションをするために、「言葉の使い方」はとても重要だろう。言葉一つで、前向きな気持ちや幸せな気持ちになれるし、その逆も然りだ。このたび、さまざまなシーンごとにすてきな言い方を紹介する『いつもの言葉があか抜ける オトナ女子のすてきな語彙力帳』が刊行された。著者は7万人を超える人にコミュニケーションを伝えてきた吉井奈々氏だ。吉井氏は全国で講演をするほか、発信しているYouTubeの映像は1日10万時間以上再生され、総再生回数は900万回を超すコミュニケーションYouTuberでもある。
今回は、本書の発売を記念し、特別インタビューを実施。第4回は「ファッションや異性をほめるときのポイント」や、「ほめられたときの返し方」について聞いた。(取材・構成:小川晶子 写真:疋田千里)
意外と難しい? 見た目やファッションをほめるコツ
──本の中には「ほめる言葉」として美しい言葉がたくさん載っていて、読むだけで幸せな気持ちになりました。日常の中にちょっとした「ほめる言葉」があふれていたら素敵だなと思います。今回は、見た目をほめる時のコツについて教えてもらえないでしょうか。たとえば、「髪型が変わったな」と思ったとき「かわいい~!」って毎回言うのもしらじらしい気がして…。
吉井奈々(以下、吉井):髪型が変わった気がするなど変化に気づいたときは、「今日はいつにも増して素敵ね」と言うのがおすすめです。「今日は素敵ね」と言うと、「いつもはダメなの?」と思ってしまう可能性があるから「いつも以上に素敵」という表現がいいですね。そうすると、「昨日美容院に行ってきたの~!」とか「実は初めてマツエクに挑戦したの!」と喜んで報告してくれるでしょう。
「マツエク付けたの? 似合っているね」というように変化のポイントをおさえたほめ方をすると、逆に「えっ、バレバレ?もしかして似合ってない?」と不安になる人もいます。だから、「いつにも増して華やかだね」というように雰囲気をほめます。
異性をほめる時の正解は?
──新しい髪型やファッションにチャレンジをするときって、指摘されるのが怖い気もしてドキドキしますもんね。そうやってほめてもらえたら嬉しいですね! 靴やバッグなど持ち物をほめるのはどうですか?
吉井:持ち物は男女問わずにほめやすいポイントですが注意が必要です。たとえば男性に「そのネックレス素敵だね」とか「グロス変えた? ツヤツヤだね」と言われたら、「えっ、この人どこ見てるわけ?」と思うかもしれませんよね(笑)。異性の場合、体に直接身に着けているものをほめると誤解を招くおそれがあります。ペンやスマホケースなど持ち物を「使いやすそうですね」「センスがいいですね」とほめるのであれば、言いやすいし受け取りやすいのでおすすめです。
──それは異性にも言いやすいですね!
ファッションの場合は、「春らしくて素敵ですね」というように、その季節らしさをほめるのは間違いないですね。ほかには「シュッとしているね」「フワっとしていていいね」とオノマトペを使ってほめるのもいいですよ。
──相手の趣味が自分と違って、ほめるのが難しい場合はどうしたらいいでしょうか。
吉井:その人のこだわりポイントを見つけてほめることです。洋服など商品を買うときは、数ある中から選んで買っているはずなので、必ず「選んだポイント」があるんですね。ただの黒いTシャツでも「着心地良さそうですね」、自分は選ばない服も「個性的で素敵ですね」ってほめることができます。その人がその服を選んで買ったときのことを思い浮かべてみると、こだわりポイントが見つけやすいんじゃないかなと思います。
ほめられた時の「素敵な返し方」
──ファッションをほめてもらえたとき、素敵な返し方ってありますか?
吉井:「ありがとうございます」だけでもいいのですが、気づいてもらえて嬉しいというポイントを伝えるとさらに素敵です。たとえば「そのパーカー、春らしくていいね」ってほめてもらったとき、「春だから淡いブルーに挑戦してみたんです。ほめてもらえて嬉しいです」。「今日はいつにも増して素敵だね」とほめてもらったとき、「実はマツエクに初めて挑戦したんです。気づいてもらえて嬉しいです」というように返すと、ほめたほうも嬉しくなりますよね。
──それは嬉しいですね! そうやって返してくれる人にはもっとほめたくなるし、お互いにほめ言葉が増えそうで素敵です。私は相手をほめたときに「いやいや、そんなことないです」と謙遜されると次の言葉が出なくなってしまうことがあるんですが、そういう場合はどうしたらいいでしょうか。
吉井:言葉を受け取る力は人によってさまざまです。ほめ言葉を受け取りにくい人もいるんですよね。そういうとき、相手を納得させる必要はありません。「私は素敵だと思ったよ」と言って自己完結すればOKです。たとえば、「素敵なワンピースだね」とほめて「いやいやコレ安物なんですよ、恥ずかしい」と返されたら「私は素敵だと思ったよ」と言って終わらせて、次の話題にうつればいいのです。ほめられた人も、悪い気はしていないはずです。「この人は素敵だと思うんだな」というポジティブな印象だけが残ります。
一般社団法人JCMA代表理事、コミュニケーション講師
企業や教育機関でコミュニケーション講師として活躍。15年間にわたって約7万人に「心を大事にするコミュニケーション」を伝えている。
出生時に割りあてられた性別は男性だったが、性別適合手術を受けて戸籍を女性に変更し、現在は男性と結婚。自身の生き方と経験から、さまざまな立場の人の気持ちを汲んだコミュニケーションが得意。
日本郵政や法務省、日本コカ・コーラ、日産自動車、日本アイ・ビー・エムなど多くの省庁や企業で講演や研修を担当。現場で使えるコミュニケーションスキルやマネジメントの考え方は再現性が高いと評判で、大手コンビニチェーンでの講演は「また来年も聞きたい講演会ナンバーワン」に選ばれる。著書に『オトナ女子のすてきな語彙力帳』など。