◇地域をまたぐつながり

 信用金庫は営業エリアの制限により遠隔地の企業情報をほぼ持ち合わせておらず、従来は地域をまたいだ事業支援が難しかった。しかし東京が拠点の城南信用金庫が牽引役の「よい仕事おこし」プロジェクトで全国の信用金庫が連携を強めている。

 きっかけは東日本大震災だ。城南信用金庫は第13代理事長の川本恭治氏が初代部長を務めた地域発展支援部を中心に被災地支援に取り組んだ。東北と首都圏の企業をビジネスマッチングする「よい仕事おこしフェア」の開催に際し、東北の信金に参加してもらうなどつながりを深め、運営に尽力した。

 この成功を踏まえ、インターネットで全国の信用金庫と企業がマッチングできるサイト「よい仕事おこしネットワーク」も開設された。サイトにはビジネスパートナーの募集情報や特産品情報が寄せられる。全国200以上の信用金庫が取引先と共に参加し、顧客の販路拡大や事業連携の機会を創出している。

 こうして生まれたつながりを通じ、全国の信用金庫は新型コロナウイルス禍での医療機関への物資提供や飲食店支援にも積極的に参加している。

◆金融機関が生き残るには
◇地銀の非上場化

 2017年、金融庁は金融機関に「フィデューシャリー・デューティー」の徹底、つまり顧客本位で業務をするよう求めた。金融機関と一般投資家では情報量に大差がある。そのため、その非対称性ゆえに顧客の意向が軽視されているのではないかと懸念したためだ。

 しかし情報の非対称性は金融業界だけでなく、不動産業界などあらゆるビジネスに存在する。わざわざ金融庁が求めるところに、顧客本位の金融機関が少数派であるという事実が現れている。だが、本書に登場する信用金庫は地道な本業支援で地域および顧客の信頼を得ている。

 信用金庫を規模や知名度で上回る地銀は、一部の大手を除いて経営が不安定化している。経営改善案として、近年「地銀の非上場化」が取り沙汰されている。上場をやめれば決算発表に伴う人的・金銭的負担や株主からのプレッシャーから逃れられるからだ。

 だが、著者は上場をやめても地銀の経営状況は大きく変わらないと見る。自分たちの仕事内容を変えようとしない姿勢が、地銀の経営が悪化した最大の原因だからだ。上場している金融機関でも顧客本位の経営を実現させている企業はある。