トランプ前大統領なら想定内だが…「駆け引き上手」に?

 この手の「捨て身の情報戦」はトランプ前大統領が非常にうまかった。

 『「トランプならプーチンの戦争を止められた」が説得力をもって語られるワケ』の中でも詳しく紹介したが、トランプ氏は他国の指導者をののしり、核ミサイルをチラつかせながらも、在任中にひとつも新しい戦争を始めていない。

「計画的暴言」で相手を揺さぶって交渉のテーブルにつかせる。「緊張と緩和」を巧みに使い分けて、ギリギリのところで武力衝突を避けてきた実績がある。「取引(ディール)の天才」と自画自賛をしているように、確かに駆け引きがうまいのだ。

 それに対して、バイデン氏はそのような「駆け引き上手」のイメージがこれまではなかった。しかし、今回の台湾をめぐる「計画的失言」が事実ならば、かなりの老獪さではないか。

 日本でたとえるなら、麻生太郎氏や二階俊博氏が海外へ行って、日本政府の方針と異なる方針を主張して、中国に揺さぶりをかけるようなものだ。自民党も、日本政府も、こんなリスキーな情報戦は仕掛けないだろう。そこにどんなに深い思惑があろうとも、これまでのイメージから「リアル失言」と誤解を生む恐れもあり、ご本人だけではなく政権まで深刻なダメージを負う恐れがあるからだ。

 しかし、バイデン氏とアメリカ政府はそんなリスキーな情報戦を、台湾をめぐる国際情勢の中でやってのけた。これは素直に称賛に値する。